【基調講演】
ファーストエイドでの酸素吸入の重要性について

合志 清隆氏 
琉球大学医学部附属病院 高気圧治療部部長

 合志医師は高気圧治療に31年以上も携わっており、その経験からダイビングにおける酸素吸入の有効性を語っていただいた。ダイビング事故では初期対応(ファーストエイド)が最も重要であり、減圧障害が疑われる場合には慌てずに酸素吸入を行い公的救助機関へ通報するが、酸素吸入を続けながら事故者の様子を見守る必要がある。緊急の再圧治療(高圧酸素治療の1つ)の効果が疑問視されてきた現状で、ファーストエイドでの酸素使用の重要性が強調された。

減圧障害の対処法は

これまでのダイビングや潜函作業における「減圧障害の対処法」は、再圧治療が最も効果的と考えられてきた。しかし近年、この考え方自体がだいぶ変わってきたのではないかと感じられる。多くの臨床医が使用している「今日の治療指針2018」には、非医療者による医療用酸素の使用が可能である旨が述べられており、初期対応で早急な酸素吸入の重要性が強調されている。これによって減圧障害の病状が改善することが多いが、重症ないし悪化の際には医療機関への搬送が必要であり、航空機移送では低空飛行を心がけてもらう。まずは慌てずに、現場での酸素吸入が最も重要である。

減圧障害とは

減圧障害は、ダイビング1,000回に1回、あるいは10,000回に5~6回くらいといわれている。ガイド業をしている者は深くて繰り返しの潜水を行うので、1,000回に1回くらいと考えてよい。減圧障害の症状では痛みや感覚障害が出やすく、DANの報告では感覚障害が23%、痛みは22%とされているが、統一された診断基準がないことが課題である。もう1つ診断で参考になるのは発症までの時間で、24時間以内に98%が発症しており、エキジットしてから3時間以内で60%とある。1時間以内に症状が見られる場合は重症で悪化することが多く、これに対して6時間以降に生ずる場合は軽症の傾向である。
しかし、よくみられる症状に手足の末端の痺れ(感覚異常)があるが、これは減圧障害ではなく「推体骨の異常・椎間板ヘルニア」であることが多い。ダイバーの場合、なかなか信じないこともあるが、レントゲン検査で納得している。

再圧治療が必要か、その結果はどうなのか

「緊急の再圧治療は不可欠」との盲信があるが、最近の国際的な現状はどうなのか。特殊な高圧酸素治療の再圧治療が不可欠となると、大型タンクを持った施設に緊急搬送しなければガイドは法的責任を問われる。さらに、搬送先の施設で減圧障害と診断されると注意義務違反による業務上過失の可能性が出てくる。しかし,再圧治療が必要ではないか減圧障害でなければ、ガイドが責任を問われることは稀である。

減圧障害の対応としてファーストエイドが重要になる。酸素吸入をしながら公的救助機関へ通報するが、例えば「現在,酸素吸入を行っているが、病状の悪化があれば、再び連絡するので緊急搬送をお願いしたい」と30分ほど様子をみることが現実的であろう。慌てずに状況を見て判断する必要がある。中等症(感覚障害やフラフラ感)までは改善することが多いが、重症(麻痺や尿閉)では早急な治療でも後遺症が残りやすい。この病状の見極めが大切であり、慌てることは禁物である。

再圧治療の結果はどうなのか興味のある点である。脳と脊髄の中枢神経系の減圧障害を対象とした治療結果が2011年に報告されている。統計解析の結果では、再圧治療の開始時間に関係なく、また方法にも関係がないというものであった。さらに、脳や脊髄の減圧障害では「適正な診断」が重要である。脊髄型の減圧症には早急な再圧治療が必要といわれているが、神経所見(特に感覚障害をみる)、さらに他の疾患を疑う時に画像診断が重要である。例えば、脳出血等の場合は再圧治療で病状が悪化することもあるので、詳細な診察と画像診断も必要である。

最善の治療とは

減圧障害の治療は「新たなる模索段階」に入ったと考えてよいだろう。これまで減圧障害には再圧治療が不可欠との認識であったが、「臨床試験の必要性」がDAN U.S.Aのメンバーと議論されている。再圧治療がよいのか、酸素吸入でよいのか明らかではなく、この点は潜水医学で話題になっている。

  2007年に減圧障害1045例に約4時間(中央値)の酸素吸入を行ったDANの結果報告がある。酸素吸入の結果では、改善:65%(完全回復:14%、不完全回復:51%、悪化(ナシ):30%、悪化(アリ):5%とあるが、これは重症例を含めた減圧障害の95%が酸素吸入のみで改善ないし安定することを意味している。この論文の結論は,4時間以内の酸素吸入で再圧治療の回数が減るとなっているが、さらに重要な点は早急な酸素吸入が極めて有効であることである。
 実際の減圧障害で酸素吸入のみを行った12例についてみてみた。症状は、関節痛(3例)、皮膚発赤(1例)、めまい(2例)、四肢のシビレ(4例)、片麻痺(1例)、歩行障害(4例)、呼吸苦~困難(4例)といったものであり、その結果は2日前からの「痛み」の1例を除き、11例で症状が改善した。この結果のみで再圧治療を否定するものではないが、病院での初期治療では酸素吸入が安全で、しかも効果的なのではないかと思われる。

法律の問題と予防法など

これまで薬機法により医療用純酸素の取り扱いが曖昧であったが、厚生労働省との折衝のなかで、ダイビング事業者・プール営業者等は人命救護のために緊急時に医療用酸素が使用可能と明確にされた。
さらに、関連する付属器機では、酸素レギュレターや酸素マスクは必要であり、2~3時間の吸入となると酸素濃縮器が必要となる。これらは2名の衆議院議員(大見正氏、比嘉奈津美氏)を交えた厚生労働省の担当官との議論のなかで明らかにされている。この酸素使用では一次救命処置を基盤とした「酸素講習」が重要となり、潜函作業も含めて全国的な普及が望まれる。
 
  酸素吸入で気泡はどうなるのか?酸素減圧で血管の中の気泡は減少するので、この有効性は明らかであろう。エキジットした後に酸素吸入するだけでも十分効果的ではないかと思われる。潜水前の酸素吸入でも気泡は少なくなるとの報告もあり、複数回のダイビングを行う必要がある場合には「減圧障害の恐れがある」として酸素使用は容認されようが、適正な酸素使用の普及が望まれる。

  減圧障害は「初期の段階で決まる」と判断してよく、なかでも早急な酸素吸入の効果が高いことから適正な「酸素講習」を広めることが重要である。沖縄諸島では、年に5回くらいCPRを併せた酸素講習を行っているが、それによってピーク時でも病院への緊急コールが顕著に少なくなった。恐らく現場での初期対応がうまく働いているのではないかと思われる。

  減圧障害に酸素療法は不可欠である。ただ、再圧治療がよいか酸素吸入のみでよいかの差が明らかではなく、国外では再圧治療の意味合いは減圧症の再燃の予防にあるとしている。また、浸水性肺水腫を減圧障害と誤診した場合、脳の症状が出て数時間経過している場合など、再圧治療がかえって病状を悪化させることがある。したがって、ダイビングによる事故では「速やかな酸素の投与が安全で有効」との考えをガイドで参考にして頂きたい。

報告:山内 まゆ

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