【JCUEオンライン: 開催報告】
海洋プラスチック汚染の現状
~プラスチックの知られざるダークサイドとこれからの付き合い方~

2020年6月23日に開催されましたJCUEオンラインセミナーは、JAMSTEC研究員の中嶋亮太さんをお迎えし、海洋プラスチック汚染の現状をお話しいただきました。
中嶋さんは工学博士で、専門は生物海洋学でいらっしゃいます。元々は、サンゴ礁の生態系をメインとする研究を行い、深海の生態系の研究もされています。サンディエゴにあるスクリプス海洋研究所に留学時に、プラスチック研究者と出会い、プラスチックが海に与える影響を先人たちの教えを請い、現在に至っているそうです。
世界中の海の表層に浮いているマイクロプラスチックの数は5兆個より多く、銀河系の星の数よりも多いと言われ、私たちの見ることが出来ない深海にも、その影響は広がっているとのこと。そんなプラスチックのダークサイドを語っていただきました。

目次

1.身の回りにあるプラスチック

 プラスチックは、どこにでもあります。海にあるプラスチックの話の前に、実際に身の回りのプラスチックを考えてみましょう。一般的な家のリビングルームには、丈夫なABS樹脂で作られたクーラー、絨毯はナイロンやアクリル、床はポリ塩化ビニル、メラニン樹脂や透明なメタクリル樹脂、壁紙はポリ塩化ビニルが使われています。寝室のベッドルームは枕、ベッド、毛布はポリエステル、バスルームからキッチンまで生活のありとあらゆる形で使われています。

2.増え続ける生産量

毎年、何トンのプラスチックが作られているのでしょうか?
2016年の時点で3億3,500万トンが毎年作られ、1950年からプラスチックの大量生産が始まり、2016年の時点で33,500万トン。この値には、化学繊維は入っておらず、それらのプラスチックを含めると4億トンになります。実際に、33,500万トンという数字は東京スカイツリー(36,000トン)何個分の重さか想像できるでしょうか?数にして、9,300個分の重さと同量のプラスチックが毎年生産されています。
 1年間に製造されるペットボトルをすべてつなげると地球何周分だと思いますか?2016年の時点で、4,800億本作られました。ペットボトルの高さを20㎝とすると9,600万㎞、これは地球を2400周するぶんに相当します。1年で4,800億本ということは、1分間で100万本、1秒間で15,000本が、今この瞬間に消費されているのです。
 1950年から作られたプラスチックのすべてを積算すると、83億トンとなり東京スカイツリー23万個分になります。ところが、そのほとんどがごみとなりました。人類が今まで捨てたプラスチックは63億トンで、東京スカイツリー18万個分がごみとなったのです。そのごみの約半数は、使い捨てのプラスチックなのです。

3.使い捨てプラスチックの行方

 使い捨てプラスチックが最初に使われ始めたのは欧米で、軽くて・簡単に捨てられ・安いということで便利さが受けました。国連の2018年の報告書では、一人あたりの使い捨てプラを排出している国のトップがアメリカで、次いで日本が1人あたり32㎏の排出で2位となっています。
 では、ごみになった使い捨てプラスチックの63億トンのうち、何%がリサイクルされているでしょうか。実は、リサイクルされたのはたった9%で、12%は燃やされ、残りの79%は埋め立て地、または自然環境へ放棄されたといわれています。
日本はしっかりと分別しリサイクルされていると思われておりますが、ほとんどが燃やされています。環境省の2018年の報告書では、2013年でプラスチックごみの発生量は940万トンでした。内訳は、焼却が67%、埋め立て8%、残り25%がリサイクルに回りましたが、そのうちの70%は海外に輸出し、リサイクルをしていました。日本はリサイクル率が驚異的に高い82%を達成しておりましたが、実際はごみを燃やす67%の熱回収によるもので、純粋な国内でのリサイクル率は1割程度しかないのです。

4.海に流れ出るプラスチック

 先ほど、ごみになった使い捨てプラスチックの79%が埋め立て地もしくは、自然環境に流れ出ているとお話ししましたが、どれくらいの量が海へ流れ出ているのでしょうか。
2010年の話ですが、年間480万トンから1,270万トンのプラスチックが海へ流れでているといわれています。中間値として考えても875万トン(東京スカイツリー243個分)を毎年海へ捨てているイメージです。今現在は、正確な推定値が出ていないので、実際はもっと多いと考えられています。
 これらのゴミは、ほとんどが東南アジアや中国から出ています。日本のようにゴミ収集システムが確立されていないため、不適切に管理されたごみの割合が多いのが原因です。世界で排出されるプラごみのほぼ半分と言われています。

5.プラごみが海に流れ続けると…どうなるのか

 忘れてはいけないことは、プラスチックは生物に分解ができません。石油から作られるプラスチックは、自然の状態であれば物理的に崩壊する時間は数千年から数世紀かかります。海に入ったプラスチックはずっと蓄積をされ、2050年には魚の量(重さ)を超えると言われています。
 では、海に流れ込むプラスチックはどうなるのでしょうか?海水よりも軽いポリエチレンやポリプロピレンなどは浮き、それ以外のもの例えば、ペットボトルの本体などは重たいので沈みます。軽いものは海流に乗り、世界中の海へ散らばり拡散されます。拡散している間に、様々な生き物に食べられていくのです。座礁したクジラの胃袋から、大量のビニール袋が見つかった、死んだ海鳥の中からプラスチックが出るといった話を聞いたことがあると思います。
次に、沈むプラスチックはどうでしょうか。レジ袋などが沈むと海底に覆いかぶさり、酸素が遮断され、そこにいた生物が死滅します。また分解されないので、数百年間その場所に残るのです。世界で一番深いマリアナ海溝の水深10,891mの海底でもレジ袋の破片がみつかりました。その後、アメリカや中国の調査で大きなプラスチックごみや高濃度にマイクロプラスチックが存在していることが分かってきました。
 マイクロプラスチックは、海のありとあらゆるところで見つかっています。人間活動と無縁と思われる南極や北極の氷の中、あるいは北極の大気、無人島、私たちが食べている塩からもマイクロプラスチックは出ています。マイクロプラスチックとは、大きさが5㎜より小さいものを呼びます。どのようにして出来るのでしょうか?
もともとは、ペットボトルや袋といった大きなプラスチックが、太陽の紫外線により熱酸化分解がおき、波や砂などの衝撃で細かく砕けマイクロプラスチックになるのです。浜辺などに落ちているプラごみは、紫外線と熱により劣化が進み早くマイクロプラスチックになりますが、水中はプラスチックの表面に藻類が生え紫外線の透過が妨げられ、温度が低いので劣化が遅くなります。
現在、推定で5兆個のマイクロプラスチックが世界の海の表面を漂っており、世界で5つある大きな海流の中心であるグレートパシフィックごみパッチに特にたくさんたまっていると言われております。さらにチリ沖合にもあると言われておりますが、調査がほとんどされておらず、実態がよくわかっておりません。そこで昨年11月に、実際に調査へ行ってきました。外洋の表面を漂っていると推測されるプラスチックは4,500万トンくらいありますが、実際にはそのわずか1%以下しか観測できていません。残りの99%は「行方不明のプラスチック」と言われ、多くの研究者は深海に行ったのではないかと考えています。なぜなら、いずれ沈むからです。

6.海洋プラごみの影響

これまでの調査により、プラスチックが多くの海洋生物に影響を与えることがわかっています。特に問題になっているのがマイクロプラスチックで、サンゴ、動物プランクトン、貝、魚などが誤食します。なぜ食べてしまうのでしょうか?研究が進むにつれ、どうやらプラスチックにつく「臭い」によることが分かってきました。プラスチックは臭いを吸着しやすく、海洋を漂う間に動物プランクトンの臭いがつき、海洋生物はそれを餌と間違え誤食するのです。またプラスチックは、製造時にかなりの有害な化学物質が使用されており、それらが海へと流れ出て、海中のプラスチックに吸着されます。それを海洋生物が食べ体内に蓄積されていることがわかってきました。実際の調査では、世界一深い海(水深1万メートル)に棲息するヨコエビの体からも化学物質が検出されており、海洋生物の汚染は深海にまで及んでいます。誤食による毒の取込みは、植物プランクトンから小さな魚へと始まり、食物連鎖により化学物質が生物濃縮され、最終的には人間に蓄積されることになります。

7.海のプラスチック問題、どうやったら解決できる?

昨年、G20大阪サミットでは日本が議長国となり、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が打ち立てられました。日本のプラスチック循環戦略のマイルストーンとして、2030年までにワンウェイプラスチック(使い捨てプラ)を25%排出抑制し、2025年までにリサイクル可能なデザイン、2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクル、2035年までに使用済みプラスチックを100%リユース・リサイクル等により有効利用、再生利用・バイオマスプラスチックを倍増させよう等あります。
海へ入ってしまったプラスチックは回収できるのでしょうか?結論から言えば、海に入ったプラスチックは「回収不可能」です。なぜならば、広い外洋に浮いているプラスチックは1%もなく、大部分が深海へ沈んでしまったと考えられています。また、回収には莫大な費用が必要です。それよりも、岸や川から出ないようにする対策やビーチクリーンを行うほうが費用対効果は高いのです。これ以上、状況を悪化させないためにはごみが海へ流入しないように対策を立てるしかありません。
海に入っているごみの大部分は、使い捨てプラスチックですから、大幅に減らさなければならないのです。まず取り組むべきことは、蛇口をしめることです。方法は3つあり、ひとつは廃棄物管理を徹底する。例えば、ゴミ収集時に余さず回収するなどです。次に石油系のプラスチックの生産をトコトン減らすことです。そして最後は、石油に頼らないプラスチック、生分解性のバイオマスプラスチックや他のバイオマス素材の普及です。さらに、Reデザインといって、製品・サービスやビジネスモデルそのものから変えていかなくはならない状況です。
私たち個人レベルや企業で出来ることは色々とあります。プラスチックをなるべく使わずに、マイボトル、マイバック、食器洗いも木綿やセルロースのスポンジを使って洗うなど方法は様々です。このような情報は、Webサイト「プラなし生活」に掲載しておりますので、是非とも覗いてみて下さい。

8.まとめ

セミナーは、「人類が今まで捨てたプラスチックは、東京スカイツリー18万個分」で、「毎年243個分と同量のプラスチックが、海へ流れ出ている」という衝撃的な事実から始まりました。日本でも今年7月からレジ袋の有料化が始まりましたが、国際社会では脱プラスチックやごみを出さない取り組みなどの動きが活発化しています。

中嶋さんのセミナーは、まさに「待ったなし!」の現状と問題を投げかけられました。参加された約90名のみなさんは、何を感じ、何を考えられましたか。目に見えないマイクロプラスチックや深海に沈み積もるごみが生態系に与える影響は、今後この地球にどのような影響を与えるのかまだ見えていないのです。

 今回は、限られた短い時間の中でお話を頂きましたが、ご興味のある方は『海洋プラスチック汚染「プラなし」博士,ごみを語る』を是非ともお読みください。セミナーの内容をより詳細に、そして非常に分かりやすく解説されているお勧めの一冊です。今回のセミナーを通じ、私たちの当たり前と考えていた生活を今一度、見直さなければならないと感じます。小さな一歩が、大きなものへとつながる努力を続けたいですね。
中嶋さんが運営されているWebサイト「プラなし生活」は、“なるべく”プラを使わず生活するヒントと驚きの情報が満載です。こちらも是非!!覗いてみてください。

報告:山内 まゆ

◆中嶋さん著書:海洋プラスチック汚染「プラなし」博士,ごみを語る
(岩波科学ライブラリー)

https://www.iwanami.co.jp/book/b473152.html

◆海洋研究開発機構(JAMSTEC);深海デブリデータベース(深海に沈むゴミ情報)
http://www.godac.jamstec.go.jp/catalog/dsdebris/j/

◆中嶋さんの運営する素敵情報が満載なWeb:プラなし生活
https://lessplasticlife.com/

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