2018/11/21(水)、池袋にて、ウミウシ研究者の中野理枝さんによるセミナーが開催されました。

ダイバーならウミウシは水中で必ず目にする生物です。派手な色合いや、驚くほど芸術的な形態のウミウシもいれば、地味な色柄のものまで、日本近海には、1,400種以上のウミウシがいると考えられています。そんな多種多様なウミウシの世界を「生き残り戦略」に焦点をあてて解説して頂きました。今回のセミナーにご参加いただけなかった方も、是非ご一読下さい。

目次

【ウミウシとの出会い、そして研究者へ】

中野さんは、コピーライターとして仕事をされていた1987年にダイビングを始めました。その頃のウミウシはほとんど誰にも知られていなかった生物で、ダイバー仲間に「ウミウシが好きだ!」と言うと「あんな色のついたナメクジなんか」と冷たくあしらわれていたそうです。そんな端っこな存在だったウミウシと中野さんに転機が訪れたのは1996年。インターネットの開始とともに海外のウミウシ研究者のサイトが開始。中野さんはネットを通じて海外の研究者と連絡をとるようになり、1999年に『ウミウシガイドブック』の編集を、2004年には『本州のウミウシ』の編集と執筆をされました。その頃既にウミウシについてはハイアマチュアな知識を有しておられた中野さんですが、図鑑執筆を経験したことで逆にアマチュアというスタンスに限界を感じ、ウミウシについてもっと勉強したいと思われたそうです。そこで2007年に琉球大学大学院に進学され、2013年に理学の博士号を取得されました。

【第1部:ウミウシって何?】

セミナー第1部では、ウミウシという動物の基礎知識を解説いただきました。
ウミウシは貝殻を持たない方向に進化した、少し特殊な巻き貝です。少し専門的にいうと軟体動物門 腹足綱に属する動物です。近い仲間には陸産のカタツムリやナメクジがいます。
ウミウシは同時性雌雄同体の動物で、常にオスであると同時にメスでもあります。だから出会うと必ず交尾ができる仕組みになっています。
他にもウミウシの体の作りについて、消化器官と感覚器官を中心に説明をしていただきました。

【第2部:貝殻なし巻貝 ウミウシたちのなるほど!な生き残り戦略】

巻貝の貝殻の役割は? との質問が中野さんより出されました。正解は「固い貝殻で軟体部を守るため」。では何故ウミウシは、体を守るために重要な器官である貝殻をわざわざなくす方向に進化したのでしょう?
正解(かどうかはわからないらしいのですが)は、貝殻を持つことにもいくつかのデメリットがあったためではないかと考えられています。巻き貝は食べて得たエネルギーを貝殻生産や修復に使わなければなりませんし、重いものを背負って這うのは背負わない時よりもエネルギーを使います。他にもさまざまなデメリットが考えられます。
そこで考えられるのが、ウミウシは貝殻を生産するのをやめる代わりに、自分の体そのものを不味くするように進化した、という説です。
多くのウミウシは海底に固着して動かない生物(固着生物)を餌にしています。カイメン、ホヤ、コケムシ、刺胞動物などの固着生物は敵に食べられないための有毒物質(忌避物質・生体防御物質)を保持していますが、ウミウシはそんな有毒の餌をわざわざ食べて、有毒物質を体内に保持することで自分を有毒化して敵に食べられない体になった、というわけです。

 ウミウシはその他にも、さまざまな技を使って食べられない工夫をしています。今回のセミナーでは7つの生き残り戦略が紹介されました。ここでは多くのウミウシに見られる代表的な3つの戦略をご紹介します。

生き残り戦略1:周囲の環境に紛れ込む

カモフラージュ(隠蔽的擬態):体の色形を餌=いつもいる場所に似せて、環境の中に紛れ込んでいます。

生き残り戦略2:目立つ!

警告色:「自分は味が悪いぞ、食べるはやめといた方が身のためだぞ」と敵に警告する色を有する。黄色と黒色、赤色と黒色などの体色を持つ動物は毒があることを捕食者へ警告をしていると考えられています。

生き残り戦略3:虎の威を借る!

ベイツ型擬態:さほど強くないやつが超強いやつの真似をして 「おれもヤバいやつだぜ!」と虚勢を張る(虎の威を借る)こと。シモフリカメサンウミウシなどは、イボウミウシの仲間に体の色模様を似せています。

 セミナーの最後には6月に発行された、日本近海で見られるウミウシ1441種を掲載した図鑑『日本のウミウシ』に掲載された、深海産や陸産のウミウシなど、ユニークなウミウシをご紹介いただきました。

今回は、貝殻なしで生きるためにウミウシが選んだ生き残り戦略を写真や動画を交え、参加者と交流をしながら楽しく解説頂きました。「なるほど!」な秘密が詰まったセミナーで、これからウミウシ観察に活かせる知識が盛り沢山。今まで以上に、ダイビングが楽しめそうに思えました。こうしたウミウシの生態をわかりやすく解説した『へんな海のいきもの うみうしさん』や『日本のウミウシ』など、中野さんのご著書は書店にて絶賛発売中です。是非ともお手に取ってウミウシの種数の多さに驚き、奥深い生態の世界を探ってみて下さい。

報告:山内 まゆ

中野 理枝さんの著書一覧

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