『これは2014/4/22 唐澤 嘉昭さんによって開催された『JCUEワークショップ勉強会 チャレンジM値~M値を理解して説明出来る資料を皆で作ろう~』の後に、唐澤 嘉昭さんがダイブコンピュータについて寄稿された「これ以上やさしく書けない、ダイブコンピューターとM値の話」を事務局壇野が要約したものです。』

目次

これ以上やさしく書けない、ダイブコンピューターとM値の話
要約版

これは、要約版です。元本はJCUEのHPでこれから紹介していきます。こちらは丁寧な解説になっています。合わせてご覧ください。

はじめに

1980年代の中ごろに姿を現したダイブコンピューターは、今やダイバーの必須器材になっています。ダイブコンピューターの計算の仕組みは、ごく簡単なものにもかかわらず、まるで 魔法の箱のように扱われています。ダイブコンピューターの計算の仕組みは、体が吸収する窒素のレベルをある限界(M値の範囲)に押さえましょうということです。しかし、このM値やダイブコンピューターの計算の仕組みについて書かれた本はほとんどありません。この原稿は、JCUEのメンバーの皆さんが、周囲のビギナーダイバーに、ダイブコンピューターってなんだ? ハーフタイムってなんだ? M値ってなんだ? と尋ねられたときに、こんな風に説明したらどうかという目的で書いたものです。

ちょっとだけ減圧理論の歴史

1880年代は産業革命以来、橋梁工事はケーソン、鉱山開発ではトンネルを加圧した環境で、長時間の作業が行われ、“ベンズ”あるいは“ケーソン病”という奇妙な病気が多発するようになり、重度の傷害、死亡事故が起きるようになります。
1878年にフランスのポール・ベールが過剰な窒素ガスが”血液や組織 “の循環をブロックすることが原因であることを実験で突き止め、早すぎる減圧が気泡を形成することを発表します。ここで減圧症が定義されました。
その後1889年には、モイアーがベンズの治療に高圧チャンバーを使います。1900年ごろには、ポール・ベールが提唱した、急激な減圧によって、窒素が気泡化することが確認されます。この頃には、非常にゆっくりした減圧をすれば、また2大気圧までの加圧であれば、ケーソン病がほとんど起きないことが経験的に分かってきていました。
どうすれば、減圧症を防げるかというのが、次の課題です。ジョン・スコット・ホルデーンはイギリス海軍の支援をうけて、同僚のボイコット、ダマントと研究を始めます。ゆっくり浮上すれば、また2大気圧以内の加圧は比較的安全ということを足掛かりに、圧力チャンバーを使った、多くの動物実験を重ねて研究を進めます。そして1908年にその研究成果を”圧縮空気病の予防”という形で発表します。そのときに発表されたのが、ホルデーンの減圧の原理です。
ホルデーンは、減圧症という圧力障害を、圧力と時間というファクターを使って数学的に予防しようとしました。人体内で起きる生理的な変化を数字に置き換えるという考えかたです。その結果がダイブテーブルです。減圧理論の第一の革命です
このホルデーンの減圧理論はいくつかの基本原理からなりたっています。

ホルデーンの減圧の原理

“減圧症は周囲の圧力が下がることによって起きる”
ダイビング中に体内に取り込まれたガスは、浮上によって周囲の圧力が下がると、組織内で過飽和が進行し、やがて気泡化し減圧症を引き起こす。

“異なる組織は、異なるスピードで、ガスを吸収・排出する”
人体はガスの吸収・排出スピードの異なる複数の組織からできている。

“ガスの吸収と排出は指数関数的に進行する”
ガスの吸収と排出は、最初は早く、次第に遅くと指数関数的に変化する。

“組織が吸収するガスの圧力は、周囲圧力の約2倍を越えてはならない”
すべての組織内は周囲の圧力の2倍のガスの圧力になるまで、気泡を形成することはない。この2:1の原則は、50年後にすべてには当てはまらないことが分かり、M値の考え方につながっていきます。(→P6)
この周囲圧力の2倍というのは、深度10mから水面に戻るときには圧力は2:1に減圧されます。同様に30m(4大気圧)から10m(2大気圧に相当)つまり4:2の減圧率でも成り立つと考え、深度下で限度以上に窒素を溶け込ませても、ある深度までは浮上できるとしました。そしてその深度に留まることによって、窒素を排出することができるという段階減圧の考え方をもとにダイブテーブルを作りました。

ここでホルデーンの原理を、まとめると、
「人体は、窒素の吸収と排出スピードの違う組織の複合体で、ある圧力レベルまで、窒素を気泡化させないでいられる=溶解させたままでいられる。」

①“減圧症は周囲の圧力が下がることによって起きる” 窒素圧力

窒素圧力とは体内に吸収・排出される窒素を量ではなく、圧力で測ったものです。窒素が体に溶け込むというと窒素を量で考えがちですが、溶け込む窒素を常に圧力で考えます。周囲圧力が増す(潜降する)と組織も窒素を吸収して圧力を高めていきます。そして組織は周囲の圧力と同じ圧力になるまで(飽和するまで)窒素を吸収します。深いほど、長い潜水時間(ボトムタイム)ほど、組織の窒素圧力は増すことになり、その反対にダイビング後の時間(水面休息時間)が長いほど、窒素圧力は下がっていきます。

窒素圧力の単位はfeet of sea water absolute(fswa)=海水フィート絶対圧で表現されます。fswaは、深度で表現しながら組織の中での窒素圧力を表わしています。例えば、水面レベルでの人体の窒素圧力は26.07fswaです。その理由は、水面は1大気圧で、1大気圧は33fswa(*注33fswa=10m深度)に相当し、空気は79%の窒素と21%の酸素から構成されているので、大気圧中の窒素圧力は
33fswa(1大気圧)×79%=26.07fswa
水面での人体は、窒素圧力26.07fswaで飽和の状態にあります。ダイバーが潜降してある深度に留まれば、組織は窒素圧力を増して、その深度に留まった時間によって、26.07fswaより高い窒素圧力になります。そしてこの深度に留まっている限り、その深度での平衡状態(飽和状態)にあって、問題は生じません。ダイバーが浮上をすると、周囲の圧力が減じて、組織の窒素圧力は周囲の窒素圧力より高くなります。つまり過飽和になり、水面に近づくほどの過飽和の度合いは大きくなり、限度を超えると窒素は気泡化し減圧症を引き起こします。周囲の窒素圧力と組織の窒素圧力との差は、圧力差、圧力勾配、グラディエントと表現されます。この圧力差をどうコントロールするかが減圧理論です。

②“異なる組織は、異なるスピードで、ガスを吸収・排出する” 早い組織と遅い組織

組織によって、窒素の吸収と排出のスピードが違うのは、組織への血液供給(灌流)の量によって違ってくると考えます。そこで古典的な減圧理論は、溶解理論、さらには潅流理論として知られています。
組織コンパートメントには、早い組織、遅い組織、中間的な組織があります。このようにスピードの違う組織コンパートメントを、想定した組織モデルなので、複数組織モデルともいいます。このモデルはあくまでもガスの吸収と排出のための理論的な仮説であって、人体の特定の組織と対応しているわけではありません。人体内で起こっているガスの吸収と排出を数学的に表しただけであって、吸収・排出のスピードで勝手に分けた、まさにモデルなのです。
早い組織は窒素を早く吸収し、早く排出させます。実際の人体組織としては血液、肺、臓器、脳などがそれに対応するとされています。組織への血液の流れ(パーヒュージョン=潅流)が多く、他の組織より早く窒素を吸収するとされています。対照的に遅い組織は窒素の吸収と排出が遅く、特定できるわけではあるませんが、骨髄、脂肪、傷跡などが相当すると考えられています。遅い組織は血管が少ない組織で、血流が少ないため窒素の吸収が少なく、結果的に窒素圧力も低いことになります。
人体を理論的な模型モデルとして考えることから減圧モデルといわれます。

③“ガスの吸収と排出は指数関数的に進行する” ハーフタイム

窒素の吸収と排出のスピードは、最初は早く次第に遅くと、指数関数的に進行します。ホルデーンはこのスピードをハーフタイムという概念を導入し表現したのです。ハーフタイムは、その組織が窒素で半分満たされる(半飽和する)のにかかる理論的な時間を表わしています。減圧時は組織の窒素が1/2に下がるのに要する時間ともいえます。ここで満たされるというのはあくまでも溶け込むガスの圧力を指します

ここではハーフタイムの理解を深めておきましょう。
イメージハームタイムを理解するために、5分ハーフタイム組織を例に考えてみましょう。この組織は5分で半飽和、すなわち50%飽和します。次の5分で組織の全飽和の残りの半分を飽和します。つまり半分の半分、全体から見れば25%が新たに飽和することになり、この2回のハーフタイム10分で、50%+25%=75%飽和することになります。さらに3回目の5分ハーフタイム、トータルで15分では、残り25%の半分の12.5%が加わります。50%+25%+12.5%=87.5%が飽和されます。 

01_m

これを6回繰り返すと、98.4%飽和され、100%飽和に近い状態になります。理論的にはこれをくり返しても、100%に近づくものの、永久に100%になることはありません。そこでハーフタイム6回でほぼ完全飽和すると便宜上考えて計算します。早い組織も遅い組織もそのハーフタイム6回でほぼ完全飽和し、同じようにハーフタイム6回で元のレベルに戻る、ことになります。先程の例では、5分ハーフタイム組織は30分(5分×6回)で飽和することになります。

02_m

※上記のグラフがすように、6回のハーフタイムで98・6%が溶解し、飽和すると考えることができます。
ハーフタイム5分組織では30分で飽和します。同様に、ハーフタイム10分組織では60分で
40分組織では240分(4時間)で、120分(2時間)組織では720分(12時間)で飽和します。

組織ハーフタイムの範囲―コンパートメント多ければよいのか?
理論的な組織ハーフタイムの範囲(最小と最大の差)と組織ハーフタイムの総数を見てみましょう。アメリカ海軍のネービーテーブルは5,10,20,40,80,120分ハーフタイムの、6つの組織コンパートメントです。その後開発されたPADIのリクリエーショナル・ダイブプラナー(RDP),10,20,30,40,60,80,120分ハーフタイムの8つの組織コンパートメントで構成されています。(実際には、80と120分コンパートメントは、ほとんどリクリエーションダイビングに関係ないとされて、PADIの繰り返しダイブテーブル は、5~60分ハーフタイムで作られているので、現実は6コンパートメントのモデルともいえます)。

もっとも多くのダイブコンピューターに使われているアルゴリズム、ビュールマンのZHL-16は、2.65~635分ハーフタイムまで、16もの組織コンパートメントで構成されています。
このようなハーフタイム組織の設定に幅があるのは、ダイビング目的が違うためであり、幅があればよいというわけではありません。比較的短時間で深いリクリエーションダイビングでは、吸収と排出の早い組織を重視したアルゴリズムが要求され、ZHーL16は海洋油田での作業のような長時間のダイビングを想定し、遅い組織を重視するアルゴリズムになっているのです。ただダイブコンピューターにZHーL16が多く採用されているのは、ダイブコンピューターに使うためのアプリケーションとしての開発が早かったからです。

④“組織が吸収するガスの圧力は、周囲圧力の約2倍を越えてはならない”

ホルデーンは、早い組織も遅い組織もその耐える窒素圧力はすべて同じで周囲圧力の2倍としました。アメリカ海軍は、現場の観察と実験をもとにハーフタイム組織数を何度も変更して、ホルデーンの理論を修正していきます。その試行錯誤のなかで短時間のダイビングでは深くても減圧症が発症しないことから、短いハーフタイム組織の許容圧力が控えめ過ぎることに気づきます。1960年代の中ごろに、組織コンパートメントにそれぞれに異なる許容限界圧力を設定したダイブテーブルを発表します。この組織コンパートメントごとの、気泡を形成させないでいられる、最大窒素圧力M値(Allowable Maximum Nitrogen Value)です。このM値の考え方をまとめたのがアメリカ海軍のワークマンでした。そしてこのタイプのダイブテーブル はワークマンモデルと言われます。減圧理論の第2の革命です

水面でのM値はM0と表記されます。Mは、最大マキシマムのMで、その横の小さいゼロは深度を表わします。M0は水面での最大窒素圧力、M10は、深度10フィートでの最大窒素圧力を意味します。M値の単位は、海水フィート絶対圧(fswa)で表示され、深度に相当する圧力まで窒素ガスを溶け込ませておけるという意味です。

ここで、アメリカ海軍のネービーテーブルに使われているM0値を見てみましょう。

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 最も早い5分ハーフタイム組織のM0値は104fswaで、水面での人体の窒素圧力26.07fswaの4倍です。周囲圧力が4倍になるのは、深度30mですから、5分ハーフタイム組織は深度30mのダイビングに耐えることを意味しています。
最も遅い120分ハーフタイム組織のM0値は52fswaで、26.07fswaの2倍です。アメリカ海軍は最も遅い組織コンパートメントでも10mより浅い深度では、気泡を形成しないものとしています。すなわちダイバーは、減圧症を起こさずに2倍の過飽和に耐えるとしたのです。

 ※M0値が水面での窒素圧力の何倍になるか、から水深に換算してみると

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レクリエーションダイビングの無減圧ダイビングは、各組織コンパートメントの窒素の圧力がM0値に達しないうちに、水面に戻ることを意味しています。各組織コンパートメントに決められたM0値よりも、窒素圧力が高くなると、気泡が形成されることになります。溶解理論では、M値を越えるとはじめて気泡が形成されるというのが、重要なキーワードです。言い換えれば、どれだけM0値に余裕をもって、水面に戻るかが、リクリエーションダイビングの基本的なスタンスです。無減圧ダイビングの終わりに安全停止をするのは、水面に出る前に、組織コンパートメントの窒素圧力を下げておくためです。
ダイバーが潜降し、ある深度にいるとすべての組織がよーいドンで、その深度での飽和を目指して窒素を吸収していきます。もっとも早い組織から順に飽和レベルに達します。そのときにその深度でどの組織がそのM0値に近づくかが問題になります。
例えば、20m深度では、この深度の飽和窒素圧力は78.21fswa(26.07fswa×3=78.21fswa)で、ネービーテーブルの、5分ハーフタイム組織のM0値104fswa、10分ハーフタイム組織のM0値88fswaを越えません。次の20分ハーフタイム組織のM0値は72fswaと20m深度での飽和窒素圧力78.21fswaより小さいので、この20分ハーフタイム組織が、そのM0値に到達する時間が、無減圧リミット時間(ノーストップタイム)ということになります。
次に、組織コンパートメントのどれかが、M0値を越してしまうと、このダイビングは、減圧停止が必要なダイビングの領域に入ります。つまりダイバーは水面に出る前に、越えてしまった組織コンパートメントの窒素圧力をM0値以下に下げなくてはなりません。

M値はどうやって 決められたのか

人体が耐える限界値(M値)は、チャンバーを使った人体実験で決められました。組織コンパートメントは、6回のハーフタイムでその深度での飽和に達します。例えば、5分の組織コンパートメントが、飽和に達するのは、5分×6回=30分ですから30分のダイビングを、多くのダイバーが少しずつ深度を増して、くり返していき、どの深度で30分滞在すると、減圧症が発症するかを統計的に探っていきました。同様に20分の組織コンパートメントでは120分のダイビングができる限界深度を、実験的に統計的に決めたのです。アメリカ海軍が実験的に得た成果が、5分ハーフタイム組織のM0値が104fswaであり、120分ハーフタイム組織のM0値が52fswaだったのです。
乱暴な言い方をすれば、ある深度でダイバーが、減圧症を発症せずにいられた時間を6で割った数値が、組織ハーフタイムであり、その深度がM0値なのです。もちろんいろいろな安全要因と修正を加えた結果からダイブテーブルは作られます。その方法は簡単でも、ダイブテーブルを作るには膨大な実験が繰り返されます。
そしてどのような減圧モデルも、ある深度に一定時間滞在して水面に戻るモノレベルダイビング(箱型ダイビングともいいます)を前提に作られています。M値がその深度にどれだけの時間いられるかが実験で求められたことを考えれば、モノレベルダイビング用にならざるを得ないのです。 
よくある間違いですが、ダイブコンピューターのメーカーがアルゴリズムまで作っていると思い込んでいる人がいます。またダイブコンピューターのメーカーも自分で開発した最新のアルゴリズムを採用といった広告宣伝をしています。しかし、メーカーには自分でM値の実験はできないので、既成のモノレベルダイビングのダイブテーブルの二次使用をしているのにすぎません。モノレベルダイビングの実験で作られた減圧モデルを、かなり強引にマルチレベルダイビング用に拡大解釈して使っているのです。安全度を高めるには、すでにあるM値を入手して数学的に控えめな方に削る以外のことはできないのです。そしてM値を数学的に削ったからといって、それがどれだけの、効果があるかは、実験してみないと分かりません。いわば速度制限100km/hの高速道路を95km/hで走行すれば、安全度は高まるでしょうが、どれだけの効果があるかの実験は大変難しいのです。残念ながら自分のコンピューターの安全度を具体的に発表しているコンピューターメーカーはないのです。 
 

M値理論の限界とマイクロバブル

1960年代半ばに、減圧症を起こしていなくても、体内に気泡が形成されていることが発見され、無症状気泡=サイレントバブルの存在が明らかになりました。もともと人体には気泡の種となるガス微小核が存在していて、それが浮上時に人体組織から遊離した窒素を吸収して発達しサイレントバブルへ、さらに減圧症引き起こすサイズに成長する。そこでこのサイレントマイクロバブルの成長をコントロールするという考えかたが、生まれてきました。このような理論を気泡理論といいます。いわば減圧理論第3の革命です。
ダイブコンピューターが採用している溶解理論モデルは、M値を越さなければ気泡は形成されないことが、この理論の核心でした。しかし、サイレントバブルの存在が明らかになった現在では、M値の範囲内でダイビングをしても、気泡が形成されることが分かっています。現在ではM値は気泡の形成を防ぐものではなく、減圧症を100%防ぐための万能策ではないと考えられています
M値を核心とした減圧理論は、一言でいえば組織のガスの吸収の限界量をコントロールする加圧の状況を重視し、気泡理論はできてしまっている気泡を成長させない、浮上を重視した理論といえるかもしれません。そこで多くのダイブコンピューターは、M0値を削ってより控えめなものにしています。これはあくまでも数学的な処理に過ぎず、すべてのダイビングシナリオに対応できるかどうか疑問です。しかし現実には圧倒的に多くのダイブコンピューターは、M値をコントロールする溶解理論のダイブコンピューターです。ダイブコンピューターは、ハイテクに見える外観とは裏腹に、理論そのものはごく簡単な実験から生まれた経験値、M値であることを、理解しておく必要がありそうです。

終りに

M値はホルデーン以来の溶解理論の核心です。人体を数式に置き換えるという画期的なホルデーンのアイデアの産物です。M値だけでは気泡の成長をコントロールできないことは、明らかになっています。それでもこの溶解理論の良いところは、このM値を削れば、すなわち控えめに見積もれば、いくらでも控えめなダイブコンピューターが作ることができることです。あるいはダイバー自身が、水温、体調などに合わせて控えめなダイビングに設定する、いわゆる個人情報機能操作ができるところにあります。ただし、その正体はM値をカットしているにすぎません。
ダイブコンピューターの採用しているアルゴリズム、すなわちどのような減圧理論にもとづくものでも、ダイバーにコントロールできるのは、時間と深度しかありません。結局窒素の吸収を控えめにして、そして排出する余裕を持つことしかできないのです。その意味で窒素の吸収の限界値、M値を理解しておくことが必要でしょう。
そして、すでに人体には気泡が存在していて、その気泡の成長をコントロールしようとする気泡理論の発展は、浮上の影響をできるだけ控えめにしようという提唱につながってきています。浮上スピードを遅くすること、安全停止を行うことも、最近のディープストップも大きく見れば、このような流れのなかにあります。
そのダイブコンピューターが、楽観的なのか、悲観的なのかは、M値で変わってきます。ダイブコンピューターが採用しているアルゴリズムによって決まります。ダイブコンピューターを購入するときの、最大の選択基準はアルゴリズムということになります。それぞれのダイブコンピューターのアルゴリズムを把握し、ダイブコンピューターの特徴を説明できるようにしたいものです。

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