2018/2/24(土)、合志清隆医師(琉球大学医学部付属病院)、野澤徹氏(水中科学研究所)、村田幸雄氏(国際潜水教育科学研究所)を招き「減圧障害のファーストエイドと最新治療」をテーマにセミナーが開催された。

開催概要はこちら

このセミナーは昨年11月に琉球大学医学部で開催された第52回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会の中で、減圧障害と海辺の救命救急に関わるプログラムに絞り、東京に場所を移して開催した。

基調講演

高気圧医学と30年~減圧障害のファーストエイドと最新治療

合志 清隆
琉球大学医学部付属病院 高気圧治療部部長

合志医師は、減圧障害(DCI)発症時は速やかな酸素の投与が有効として、これまで発症時に陸上で酸素投与が行われた例や、再圧室で治療した例を挙げ、効果の比較を行った。

―― 減圧障害の治療は、早急に再圧治療を行う必要があるとされています。
しかし、重症の減圧症の治療結果について統計解析を行った結果が2011年に報告されています。
ここでは、年齢や潜水時間・潜水深度・再圧治療開始時間・ヨーロッパとアメリカの治療法などを比較しましたが、差がありませんでした。
差があったのは、麻痺がある場合や尿閉(おしっこが出ない)がある場合で、なかった患者よりも予後が悪かったのです。
また、脊椎型減圧症の予後は治療開始時間や再圧治療方法と無関係であったと報告されています。
感覚障害やフラフラ感といった中等症は、脊髄の浅い部分の障害で良くなっていきますが、麻痺や尿閉といった重症では脊髄の深部での障
害で、改善は望めず後遺症が残るということです。
これまでは「大型の再圧タンクでの早急な再圧治療」を真っ先に行うべきとされてきましたが、再圧治療の効果に異論が出されています。
反面、2007年にDANから酸素吸入が重要であるという報告がなされています。
重症例を含めた減圧障害に潜水終了から4時間以内に酸素吸入を約2時間行うと、調査事例の95%で病状が安定しており、その中の65%に症状改善がみられ、改善例の14%が完全回復であり、51%が部分的な改善となっています。
症状が数時間単位で進行するものや、新たな症状が見られる減圧症(DCS)、軽症から中等症の動脈ガス塞栓症(AGE)に対しては、早急な酸素投与が有効ということです。
減圧障害の症状がみられた場合、従来は大型の再圧タンクがある病院に連絡するといわれてきましたが、私は、まず酸素吸入を行い、公的救助機関へ連絡し30分程度様子を見ることが重要と考えます。
感覚障害やフラフラ感といった中等症までは、急いで再圧治療を行わなくてもどうにか良くなっていきます。
麻痺や尿閉といった重症は、再圧治療を繰り返しても後遺症がみられます。
この点を理解して、慌てて再圧室に行く必要もありません。

沖縄県では離島や無医村など医療が手薄な地域もあります。
これまでは医療機関に搬送することが優先されましたが、航空機による搬送は症状悪化のリスクがありました。
リスクを冒して病院に行く前に、酸素吸入と水分補給を真っ先に行うべきです。

教育セミナー

第1部 
ウォータースポーツのための酸素ファーストエイド

野澤 徹
水中科学研究所 社会スポーツセンター

野澤氏は、社会スポーツセンターが行う「ウォータースポーツのための酸素ファーストエイド」の内容のうち、「溺れ」「減圧症」「動脈ガス塞栓」について、我が国の酸素の取り扱いについて、ダイジェストで紹介した。

―― 「溺れ」は水に顔が完全に沈んで呼吸できなくなるか、水を吸って呼吸が妨げられる状態です。水を吸い込むと血中酸素が不足し、除脈から心停止に陥ります。心停止していなければ人工呼吸による吹き込みのみで呼吸が回復する可能性があります。これが水辺の事故で酸素供給が重要になる根拠です。ヨーロッパ蘇生協議会のガイドラインに、溺水の救命の連鎖として「溺れを防ぐ」~「溺水者の発見」~「浮力体を投げる」~「水から救い出す」~「必要なケア」のステップが示されています。
「溺れを防ぐ」は、ライフジャケットやウエットスーツなどを身に付け、安全を確保することです。「溺水者の発見」は、発見したら周囲に知らせ、救急車やレスキューチームを呼ぶことです。そして溺水者を引き上げるときは救助者の二次災害を防ぐためできるだけ水には入らずに「浮力体を投げ」て「水から救い出す」。「必要なケア」は溺水者の初期評価を行い、必要に応じて胸部圧迫や人工呼吸、AEDの使用、救急隊に引き渡すというものです。
ダイビングではレスキューコースなどで人工呼吸しながら曳航するトレーニングを行いますが、実際には溺水者の顔を沈めずに人工呼吸するのは難しいため、岸やボートが近ければ一気に曳航して引き上げてしまうか、曳航せずにその場で人工呼吸をして救助を待つほうがいいケースもあります。
次にダイビング障害と酸素についてです。減圧障害に対して水辺で高濃度酸素を供給することは、不活性ガスの排出促進、体内の気泡の縮小などの効果があります。高濃度酸素の位置付けはあくまでもファーストエイドで、症状が消えたからと自己判断せずに、専門医の診断を仰いでください。
酸素の取り扱いは可燃性ガスのため専用のボンベを使用すること、酸素中毒のメカニズムを知り回避すること、過換気症候群など酸素を与えてはいけないケースもあることなどを知っておく必要があります。

第2部
ダイビングと救命・救護

村田 幸雄
国際潜水教育科学研究所
琉球大学医学部公衆衛生学
琉球大学医学部付属病院高気圧治療部

村田氏は、水辺事故における救命・救護の現状と問題点を知り、救命救護の体制の強化と継続的なトレーニングの必要性についてこれまでの事故対応の経験を交えて紹介し、潜水事故に対応するネットワーク作りの重要性を唱えた。

―― ダイビング事故は、近年、高齢者の生活習慣病やスノーケリング中の事故など、減圧障害とは異なる要因で増加しています。沖縄県では2000年以降事故件数が徐々に増えています。年齢別に比較すると40代以降の事故例が増えています。これはダイビングにおいても高齢化が進んでいるためと思われます。スノーケリング中の事故は、平成29年1~9月の日本スノーケリング協会のデータによるとトップが沖縄本島、次いで沖縄諸島、静岡県の順で、大半は溺水です。
 沖縄県には年間50万人を超えるレジャーダイバーが訪れ、2000名程度の事業者(ガイドやインストラクター)がいます。事業者はハードワークや高齢化などによる減圧障害のリスクや、長期のスクーバ潜水による精神神経機能の障害を引き起こす懸念を抱えています。
 沖縄県には緊急時に高気圧酸素治療が行える大型設備(第2種装置)は、琉球大学病院と南部徳洲会病院の2基のみで、小型設備(第1種装置)は本島に5基、石垣島、宮古島にそれぞれ1基あるのみで、受け入れ病院が限られます。
 現状の問題点には治療施設の不足に加え、酸素供給能力の不足が挙げられます。酸素の充填は沖縄本島でしかできず、輸送も貨物船に限られるため離島では酸素を備蓄するのが大変です。そのため家庭用コンセントでも使用できる医療用酸素濃縮器の導入の検討を県にお願いしているところです。
ネットワーク作りとしては、的確な事故対応と重症化を防ぐため、潜水事業者と救急・医療機関を橋渡しする「潜水救急ネットワーク沖縄」(仮称)の創設が進められています。

第3部
フロアーからの質疑応答

Q 減圧障害時に水分補給は重要か?
A(合志) 有効です。ショック状態が給水することで緩和されます。もし生理食塩水が現場になければ、海水を3~4倍に薄めて代用することもできます。

Q 溺水ダイバーを水中から引き上げる場合、気道を開くと却って水が入ってしまうのではないか?

A(村田) 引き上げるときは気道の確保ができるように後ろから溺水者の脇に手を通して、仰向けにして引き揚げます。気道を開いても海水が入ることはなく、肺の過膨張を防ぐために開かなければなりません。

Q 高濃度酸素により悪化するケースはあるか?
A(合志)DCIのうち5%にあたる重症のAEGは、酸素を与えても回復は見込めません。

Q 高気圧治療が必要なのは世界の常識。今回のセミナーをJCUEが企画した意図は?
A(山中)減圧障害の治療に多様な考え方があることをダイバーは知る権利があり、重要なことと考えます。

Q高気圧治療により悪化するケースもあるのか?
A(合志) 脳梗塞は悪化することもあります。高気圧治療がまったく必要ない訳ではありませんが、高気圧治療を行わなくても回復するケースも多く、アメリカでは90%が直ちに高気圧治療を行っていません。

Q アメリカDANのリポートでは高気圧治療は廃れていない。今回のセミナーは廃れていると誤解されかねないのでは。
A(合志)高気圧治療の開始時間が早くても遅くても予後に変わりはありません。まずは高濃度酸素を吸うべきです。
A(野澤)最終的にはドクターの判断を仰ぐべき。日本では診療報酬改定により、高気圧治療をいつ受けても治療費は変わらなくなりました。

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