第24回 JCUE セミナー
開催 2016/9/30
講師 SDI TDI ERDI JAPAN 加藤大典氏
目次
はじめに
加藤大典です。名古屋で17年ほどダイビングショップをやっています。テクニカルダイビングを楽しんでいるうちにTDI JAPAN(テクニカルダイビングインターナショナル)を引き受け、 SDI JAPAN、 ERDI JAPANもスタートさせました。SDI(スクーバダイビングインターナショナル)はレジャーダイバーにテクニカルの考え方を取り入れた指導団体で、今年から日本での認定が始まりました。ERDI(エマージェンシーレスポンスダイビングインターナショナル)は、救難救助、捜索のダイバー育成の団体です。日本では準備中ですが今後はこのコースも始まる予定です。
今回はSDIのソロダイバーコースを取り上げます。
セミナーのアウトラインとして4つのテーマで話して行きます。
- 安全と危険は誰が決めるのか
- なんかへん? 日本のダイビング
- ソロダイビングは危険なのか
- バディシステムは優れているのか
安全と危険は誰が決めるのか。
(会場に)危険なものというと何が頭に浮かびますか?
無理やり組まされた下手なダイバー。
安全だと思うものは?
危険なものは知識がない人、安全なものは知識がある人。
安全の定義を考えると、同じものでも人によって感じ方が違いますが、できる限り危険を取り除くことで安全に近づくと考えます。
安全を守るには安全管理が必要になりますが、提供者が管理するものと利用者が管理するものの2種類があります。
なんかへん? 日本のダイビング
次に「管理と自由」という視点で見ていきます。
ダイビングの事故率
利用者が安全管理しなければならないものとして、交通安全が挙げられます。交通事故率は20年前と比較すると半数以下に減少しています。なぜ減ったのか。車の性能、道路の整備、そして飲酒の禁止など、法律改正により厳しく規制することで安全性が向上しました。車の事故率は0.003%になります。
登山の事故は多いといわれ、昨年の事故者数は300人を超えています。愛好家はダイビングの10倍で、事故率は0.003%でした。
さて、ダイビングはどうか。昨年の死亡事故は23人でした。人口がはっきりしませんがダイバー人口を1千万人で計算すると、事故率は0.002%という数字になります。ダイビングの事故率は高いわけではありません。
依存ダイバー
なぜダイビング事故率が低いのかを考えると、1つ目の理由に挙げられるのがCカード制度による教育の機会があることです。それに加え、日本はサービス提供側が安全管理を行いカバーしています。なぜ安全管理をするのかを考えると、日本は過保護に制限するほうが好まれる国柄もあるかもしれません。ダイビングは水の中で行われるため、事故が起きたときに原因がわかりにくく、提供者の責任が問われるケースも多々あり負担が大きくなることから、制限する面もあるでしょう。さらに日本では漁業による制限もあります。こうしたバックボーンがあって、ダイバーが自立できない環境ができてきたのではないかとも考えられます。
海外どうかというと、Cカードを取得すると自己責任というのを当たり前のように理解して潜っている印象があります。一概には言えませんが、初心者でも残圧管理や潜水計画を一生懸命やっている姿を見かけます。
日本ではCカードを持っていても、安全を提供側に求めている傾向があり、ダイバーとしてのカテゴリーわけをすると「依存ダイバー」が多いかもしれません。そもそもCカードは自立ダイバーに対して発行されるものという定義があります。にもかかわらず管理してしまうため、日本のダイビングは矛盾が生じています。
では、依存ダイバーではダメなのでしょうか。人によっては過保護だよ、よくないと言うかもしれません。いっぽうでさすが日本はサービスが徹底していると考える方もいらっしゃると思います。これは僕の個人的な考えですが、障碍者ダイバーがその道のプロフェッショナルや善意のボランティアダイバーのサポートをうけてダイビングを楽しんでいますよね。その考え方を、スキル不足や年齢、メンタル面で不安がある方たちに置き換えたら、プロやボランティアのサポートで安全が担保されているのならそれも1つのスタイルではないかと思います。Cカード制度との矛盾は生まれますが、安全面に余裕がある中で楽しんでもらえるならダイビング業界を寛容で豊かにするために必要ではないでしょうか。このあたりもこれから整備が必要だと思います。/
自立ダイバーの育成
安全にダイビングが盛り上がる環境を作るにはどうすればいいか。
自立ダイバーを育てることが1つのキーワードになると思います。育てるには教育とトレーニングが必要不可欠です。僕もテクニカルダイビングをする中で、周囲のダイバーやインストラクターたちは、教育とトレーニングに参加し、練習することが当たり前でカッコ悪いことではない。その練習を楽しんでいます。一般のダイバーでもこうしたことを好む人がいるいっぽうで、インストラクターでも「遊びなんだからトレーニングは必要ない」と言う人もいるでしょう。僕は水の中で遊ぶスポーツですから教育とトレーニングが必要だと思います。
教育とトレーニングが進んで自立ダイバーが増えるとどんなメリットがあるか。ダイバーは自由度の高いダイビング環境が与えられるので、ダイビングの幅が広がり、好奇心や探究心が生まれ、ダイビングに夢中になっていくでしょう。ダイビングする環境を制限するのではなく、新しい環境を提供することで、ダイビングが楽しく刺激的なものになるのではないかと思います。
インストラクターには、教育とトレーニングを行うという活躍の場が増えます。現地ガイドにとっては、自立ダイバーが増えれば事故が減りリスクが減って行きます。
現地ガイドの中には、ソロダイバーが増えると仕事がなくなると言う人もいますが、そうではないと思います。生き物やその場所の情報をガイドに紹介してもらうことはなくなりません。ニーズはいまと変わらないか増えてくると思います。ソロダイビングできる環境を作ることで、日本では難しかった冒険的なダイビングが可能になる。そうなると新しいダイバー層が増えて業界が賑やかになると思います。問題はCカードを取得してしまうと練習する機会がないことです。
これまでも自立ダイバーを育てることをテーマにダイビングスクールをやっていましたが、繰り返し練習したりしなければならず時間がかかる上、完ぺきに仕上げるのはなかなか難しい。短期間で高度な技術が学べたとしても、教育は終わりではありません。継続的な教育の中で、ダイビングは周囲が守ってくれるものではなく、自身で安全を作らなければならないもの。自己責任をしっかり自覚してもらいながら自立ダイバーになってもらわなければなりません。
それでも、いろんなタイプのダイバーがいるので、中には自立したスタイルが向かない人もいます。インストラクターはできない場合には「やめておこう」と言えることも大切です。
日本のダイビングを面白くするには、これまでのダイビングスタイルに加え、自立して遊べる環境を作ることで、さらに盛り上がるのではないでしょうか。
ソロ(単独)ダイビングは危険なのか
「固定概念と幻想」というテーマで話しを進めていきます。
ダイビングを知らない人にとっては、ホオジロザメでもシュモクザメでもサメというだけで危ないという固定概念を持っています。知識のあるダイバーだったら全てのサメが危ないわけではないことをわかっています。
ソロダイビングも同様です。固定概念で単独潜水は危険と考えていると思います。
(会場に)ソロダイビングで想定される危険は何があるでしょうか?
器材の故障、水中拘束、体調不良、事故があっても助けてもらえない。
みなさんの回答から根本的な責任を他者に求めている考え方であることがわかりますね。それは依存しているともいえるのではないでしょうか? もちろん助け合うことは大切なことですが、ダイビング前から誰かに頼ること前提に計画することはどうなんでしょう? できるできないということではなく、根本的には自己解決していこうという考え方をしている人とバディを組みたいと思いませんか?
6大リスク
ソロに関わらず、ダイビングで起こりうる6大リスクにはどう対処すれば安全性が高まるのか。
「エア切れ」「器材トラブル」「吹き上げ」「ロスト(コースアウト、バディを見失う、漂流)」「潜水時間や水深の不注意」「能力の過大評価」について見ていきます。
エア切れ
エア切れの原因は2つあります。1つ目は残圧チェック忘れ、2つ目はガス漏れです。ソロダイバーマニュアルに紹介されている器材故障によるガス放出時間を見てください。故障部位や水深により変わりますが、だいたい1~4分でゼロになります。
エア切れの対策
一般的なエア切れの対応策は、バディやガイドから分けてもらうか、自力でフリーアセントをするとうものです。エア切れに対する昔の考え方は、昔はオクトパスなどがなく器材が整っていなかったり、故障が多かったため、補うためにダイバーは素潜りの特訓をしてからスキューバに臨んでいたそうです。確かに緊急浮上すれば生きて帰ることはできますが、減圧障害のリスクは取り除けません。今は器材が発達してトラブルをカバーしてくれるため、スキンダイビングができない人も多くいらっしゃいます。今のダイバーはどうすればいいか。個人的にはスキンダイビングができたほうがよりよいと思いますが、それよりも大切なのは、すぐに他の呼吸源を用意するということです。バックアップガスやオルタネイトガスに交換するスキルを練習する。バックアップは持っているだけではなく、すぐに吸えるようにしておく必要があります。
「従来のキューバユニット」
オルタネイトエアソース/代替空気源(オクトパス・AIR2など)
SDIにはSドリルやVドリルの練習があります。Sドリル(セイフティドリル)は、バディダイビングをするときにエアシェア、エア切れ、空気くださいの練習をしてお互いに与えられることを確認してから潜りはじめましょうというもの。Vドリル(バルブシャットアウトドリル)はバルブの開閉の練習をすることで、バックアップガスを持って行く場合、潜る前に必ず開閉を練習してから潜ることでタイムロスが少なくなります。エア切れに対処するにはこうした練習をしておくことが大切ではないかと思います。
ガスマネジメント:1/2ルール
ガス管理について。テクニカルダイビングは一般的なダイビングとどう違うのかを見ていきます。
レクリエーションのガスマネジメントは1/2ルールというものです。
200バール入っている満タンのシリンダーを使用し、50を残すとすると、150が使えるガスになります。そうなると片道70バール使用して130で折り返すことになります。帰りも70バール使用すると、残は60になり想定通り安全に帰れるというマネジメントです。ところがバディが折り返し地点で0になったらどうなるか。2人とも帰るのに70必要なので2人で吸うと140になり、折り返し地点で残っていた130では10バール足りなくなります。水面に上がればいいと思うかもしれませんが、ボートダイビングだとアンカーまで戻らないと他のボートとの接触が心配される場所もあり、すぐに浮上できないこともあります。
ガスマネージメント:1/3ルール
テクニカルは一般的なダイビングの範ちゅうを超えて、40mより深く潜ったり、洞窟や沈船の中に入ったりするなどよりリスクの高いダイビングのため、ガスマネジメントもシビアな考え方をします。
ルールは1/3が基本です。行きに1/3、帰りに1/3、そして1/3を残して帰るというものです。
ソロダイバーコースでもこの1/3ルールを適応します。シリンダーも通常使うものにプラスしてポニーボトルとかステージボトルと呼ばれる別系統のスクーバユニットを持ち、空気源は2つ用意します。
1/3ルールを使ってソロダイビングをする場合にどのようなガスマネジメントを行うのか。まず、メインのシリンダーは2/3のボリュームを持ちます。残りの1/3をポニーボトルが持ちます。メインが10?とすると5?くらいのポニーボトルを用意すれば1/3になります。通常のダイビングをしているときは、メインのシリンダーのガスだけを消費して帰って来るので、ポニーボトルは使用しません。もしもメインのスクーバユニットからガス漏れが起きた場合には、そこで初めてバックアップを使用し、安全に戻れるという考え方です。
30年、40年前はDC、オクトパス、BCDはありませんでした。その時代に潜っていた人たちの中には、それらの新しい器材が登場したときに「いらない」と言っていた人もいたと聞きます。バックアップ空気源も見慣れないために仰々しく感じるかもしれませんが、ソロダイバーコースに参加して価値がわかると、持っていないと不安で潜れなくなるかもしれません。
※日本では、バックアップ空気源とは、オクトパスやAIR2などのことを指しますが、SDI JAPANでは、オクトパスやAIR2はオルタネイト空気源と呼びます。あくまで予備の空気源ではなく一時しのぎな空気源ということです。別系統のスキューバシステムのことをバックアップ空気源と呼んでいます。
器材トラブル
「器材トラブル」に対しては、メンテナンスをしっかりすることです。ホース類は5年に1回は交換し、OHを定期的にする。当たり前のことですがそれによってトラブルは少なくなります。それでもしょせん道具です。ダイビング器材は壊れないという幻想を持っているかもしれませんが、どんなにメンテナンスをしても突然壊れることはあります。そんなときに壊れないと思っていると、それだけでパニックになる。壊れたときの対処法を練習しておくことで、事故は防げるのではないかと思います。
吹き上げ
マスク脱着も中性浮力を取りながらすべての器材脱着ができれば、ドリフトダイビングで器材トラブルがあっても吹き上げることはないでしょう。ベテランダイバーでもマスクが外れて吹き上がってしまう人を見たことがあります。これではリスクがありますから、トレーニングはベテランでも必要ではないかと思います。
ロスト
「ロスト」に対しては、まずは基本的なナビゲーションをしっかり覚えるということです。何かというと直線ナビゲーションです。迷子になったらと不安になるかもしれませんが、わかる範囲で潜ればいいだけです。たとえばビーチエントリーで10m先の水深3mで1時間ウミウシを撮って帰ってきてもいいわけです。少しずつわかる範囲を広げていけばいいんじゃないでしょうか。そうすることで地形を把握でき、迷子になることも少なくなるんじゃないでしょうか。
自立ダイバーといえども周囲のサポートは必要です。誰もいない場所で潜ったら、トラブルが起きたときに誰にも気づかれません。たとえばビーチダイビングをするなら、これはひとつの提案ですが、現地サービスなどにソロダイバーの潜水計画書を提出して、異変があれば現地サービスがサポートをする。これを無料でやっていいのかというと、現地はサポート料をいただいて、ポイントや注意点を紹介する。実際に救助活動が必要なときはボランティアで行うのではなく、有償で行うのがいいのではないかと思います。そうすることでダイバーも依存することが減ると思います。何かあれば自分に降りかかることがわかれば、わきまえて自由なダイビングを楽しんでもらえるのではないかと思います。
潜水時間や水深への注意
続いて「潜水時間や水深への注意」。今のダイバーはほぼ全員DCを付けて潜っていると思いますが、ちゃんと潜水時間の管理をしている人はどれだけいるでしょうか。付けていれば安全と思っていることで事故が起きる原因になります。
自身の能力の過大評価
最後に「自己過信」。自身の力量は自分ではわからないものです。そこでインストラクターの出番で、トレーニングの際に冷静な評価を伝えることが重要です。インストラクターは生徒ダイバーと信頼関係を作り、正しい評価をきちんと伝えられるようにするべきです。安全に関する部分にお客様という考え方は違うと思います。それは安全なダイビングを習いに来ていただいている生徒ダイバーへのインストラクターとしての責任は果たせていないことになります。日本のダイビング教育全体を変えることはまだまだ時間がかかることかもしれませんが、まずはソロダイバーインストラクターとなる方たちには、大切なことをきちんと伝えることを大事としてほしいと思います。そしてそういった価値観をもてる方たちにソロダイバーインストラクター資格を取得してほしいと思います。もちろん自信のない人を励まし、不必要な不安を取り除くことは大切ですが、自信過剰な人、自己評価の高い人に対してきちんとしたアドバイスをするなど評価を正しく行うことでカバーして行くべきと思います。
コンフォートゾーン
SDIのソロダイバーコースの中心的なことに「コンフォートゾーン(快適ゾーン)で潜る」というものがあります。ソロダイビングは、過激なイケイケのダイビングではなく、自分がストレスなく快適に潜れる状態で楽しむことなんです。グループ潜水だと仲間に気兼ねして、ちょっと体調が悪くても不安があっても、仲間に迷惑をかけたくないと潜ってしまい、事故につながることもあるかもしれません。ソロダイビングのいいところは、誰に気兼ねする必要もないので嫌ならすぐにやめていいんですね。潜る前に自分に潜っていい状態か、器材は、体調は、精神的にはどうかと問いかけて確認する。すべてOKならダイビングを実行すればいいんです。
ではこの快適ゾーンはどう作るか。たとえば初心者ダイバーでマスクを押さえ潜り続けている人がいます。理由はマスクが外れたら不安だから押さえているわけですね。この方はまったく快適ゾーンで潜っていません。快適ゾーンを広げるにはストレスを取り除くことです。マスクの浸水が怖い人はトレーニングをして平気にしてしまうこと。そうすることでストレスが減ります。深場が怖ければ行かなければいい。でも行ってみたいと思うなら、何が足りないのか考えて、足りないスキルを1つ1つ練習して不安がないと思えたら行けばいい。コンフォートゾーンを広げて行くには練習が重要になってきます。
この図にピナクルダイビングというのがあります。ピナクルは頂点という意味で、チャレンジングで複雑なダイビングのことを指します。ソロダイビングではこうしたダイビングをすることを禁じています。あくまで自分のレベルに合ったコンフォートゾーンで潜るのが基本です。深い所が怖い人は浅い所でソロダイビングを開始する。流れある所が怖い人は、そこではソロダイビングはやらない。条件がそろった時に初めて実施するという考え方です。
先入観をお話したときに、ノンダイバーは「ダイビング=サメ=危険」でしたが、ダイバーはそうではないとお話しました。ここまで大まかですがソロダイビングの安全管理の仕方をお話しして、意外と危険ではないと思ってもらえたでしょうか。やってみないとわからないと思いますので、ぜひこのコースに参加してみてください。体験してみるとなるほどと理解してもらえると思います。
ソロダイビングはするつもりがないという人もいるかもしれませんが、バディやグループで潜っていても、気づかずに単独になっていることもあります。ガイドが下見のために一人で潜っていたり、自己管理ができないダイバーを連れているときはソロダイバーと同じ状況です。ベテランのローカルダイバーや写真を撮る人が一般的な装備で、一人で潜っていたり。いっしょにエントリーして水中に入ったらバラバラという似非バディダイビングというのもあります。バディ潜水をしていても、はぐれればソロダイビングになっています。気づけば単独になる可能性があることを覚えておいてください。いつも誰かが助けてくれるわけではありません。自分のためバディのためにソロダイバーのトレーニングに参加してみてください。すべてのダイバーに安全と快適さをもたらしてくれます。
ソロダイバーコースの概要
ソロダイバーコースは、ガス管理、器材の対策、パニックを起こさずにトラブルに対処する、時間と水深の管理、ロスト対策、ソロの器材扱い、パーフェクト安全計画の立て方など、バディシステムでない考え方と方法を学んでいきます。器材は一般的なダイビングの装備に加え、アルミシリンダーのポニーボトルを装着し、いつでも吸えるように首にセカンドステージを掛けておきます。これにより、バディにもらうよりも早く次の呼吸源に移ることができます。
受講条件は、21歳以上、アドバンスドダイバー以上、100本以上というものです。じつは100本以上の一般ダイバーが受けられるトレーニングコースは意外と少ないんです。基本コースは2日間ですが、出来高ベースで認定を行いますので、受ける人によっては補修が必要になると思います。ほぼ完成された人が参加すれば、最短2日で取れると思います。
ソロダイバーインストラクターになるには、
21歳以上、インストラクター経験が1年以上(団体は問わず)、50以上のCカードの認定が必要です。
バディシステムは優れているのか。
キーワードは「理想と現実」です。
バディシステムの利点
理想はバディはもう1人の自分です。何かあった時に考えてくれるもう1つの頭脳であり、もう1つの手、もう1つの目です。エア切れの時の空気源であり、楽しさを共有する仲間です。
バディシステムの欠点
ところがバディシステムで嫌な思いをした人は少なくありません。勝手でこちらに気を付いてくれない。意思の疎通が取れずにストレス満載。バディの面倒ばかりを見させられて楽しめない。生き物を観察していたらバディに邪魔されたなどなど。楽しいはずのダイビングがバディのためにストレス満載だったということもあるでしょう。
ストレスは安全と無関係ではありません。ストレスがあると呼吸が乱れ、息苦しくなり中性浮力ができない、呼吸が早くなれば減圧障害のリスクも高くなります。こうなるとバディシステムが安全の邪魔をしているとも考えられます。
原因は注意力が足りず、コミュニケーション能力が身についていないダイバーが多いためです。こうしたダイバーにエア切れのサインを出しても気づかないかもしれません。自立ダイバーではないために、うまくいかないということです。
では自立ダイバーは何かと考えると、精神的にも肉体的にも自立して潜れるソロダイバーだと思います。真の自立ダイバーはソロダイバーと思ったりします。
「相互依存ダイバー」の勧め
僕は学生時代にダイビングを始め、自分たちで自由にダイビングを楽しんでいました。卒業後、プロショップに勤めてみると、スタイルは管理ダイビングで、ゲストはインストラクターに付いていくものでした。初心者ではそれでもいいと思いますが、ベテランでも同じように依存したダイビングをしていました。そういう管理ダイビングで潜り続けていると、3~5年も経つとダイビングから離れてしまうんです。もっと自立できればダイビングを続けてくれたのではないかと思いながら働いていました。
その後独立してショップを始めたときの僕のテーマが「自立したダイバーを育てる」ことでした。実際にゲストに対してしっかりした環境を作った上で、バディダイビングできるまでトレーニングを行っていました。そこで感じたのはバディシステムの完成の難しさでした。たくさんのかたがこのトレーニングに参加してくれたんですが、合格レベルに達するのにものすごく時間がかかるんです。ただ、できるレベルになったお客さんたちは、ほんとうに楽しそうにバディダイビングを楽しんでいました。バディ同士のコミュニケーションもしっかりとれるし、お互い自立したダイバーなのでノーストレスで楽しめるようになっていたのだと思います。当時はソロダイバーコースがなかったので、自立ダイバーを育成するのに苦労しました。
「依存ダイバー」と「自立ダイバー」という言葉を使ってきましたが、理想は「相互依存ダイバー」です。これは自立した人同士のチームワークで、より高い次元のことができるというものです。真のバディシステムは自立ダイバー同士が組んで行う相互依存ダイバーだと思います。
ソロダイビングは危険なのか。このテーマはやってみなければわからないと思います。ダイビングを始めるときもほんとうに安全かどうかわからなかったと思うんですね。ぜひこのコースで正しいトレーニングを受けてやっていただくと、意外と大丈夫とわかってもらえるのではないでしょうか。
会場からの質問
そもそもこれらのスキルはOWでマスターすべきもの。あえてソロダイバーコースを開催する必要があるのだろうか?
適正に認定されて、その後、経験とトレーニングを積んでいれば必要ないかもしれません。オープンウォーターダイバーコースは最短だと三日間や四日間です。これはやり方を体験し知ることはできますが、完全にマスターするには繰り返しの練習と経験が必要です。今回、お話ししたように根本的に自立していない考え方の人が多いと思いますし、より上級者向けのダイビングを行うであろう100本以上の経験ダイバーに学んでもらういいタイミングであると思います。
海外ダイバーは自立していると評価されますが、無謀な人もいる。日本人だけが劣っているとは思わない。
外国人が上手いわけでも協調性がある訳でもなく、下手で回りが見えていないかもしれないが、自分の責任で潜っているという感覚を持っているように見えます。他人のせいにはしていないというか。自然の中で遊んでいるという感覚を持っているように思います。
伊豆でソロダイビングできるポイントはあるか? タンク(シリンダー)さえあればどこで潜っていいのか?
ポイントの開放は、ソロダイバーのことを現地に知ってもらうことが始まりだと思います。勝手にどこでも、というのは港湾や漁業者との関係があるので、あくまで現地サービスを通して潜れるエリアで遊ぶというのがルールになると思います。
一般のCカードでソロダイビングできるようになるのか、それともSDIのソロダイバー認定を受けた人のみをできるようにするのか?
ソロダイバーに認定されたダイバーは安全性が高いと思うので、受け入れてくれる現地サービスが増えたら喜ばしいことですが、それは現地の考え方で、いまも資格のないソロダイバーをダイバーの実力を見て受け入れている地域もあると思いますので、受け入れ側の判断だと思います。
ポニーボトルは個人で購入するものか? 購入した場合のメンテナンスは?
現地サービスがソロダイバーを受け入れるときに、レンタル品として常備するのが1つの方法です。現地にない場合は、個人で購入することになります。メンテナンスは、アルミなので1年に1回の視認検査と5年に1度の耐圧検査が必要になります。
ポニーボトルはどう装着するのか?
BCDの胸と腰のDリングに引っかけて使用します。ショルダータイプでDリングがない場合は、ウエイトベルトにDリングを付けてもらえば使用できます。その他、メインのシリンダーにベルトで付ける方法もあります。レギュレーターはヨークスクリュータイプも使用できますが、コンパクトでエア漏れが少ないDINタイプがオススメです。
私は、すでに各地でソロダイビングを楽しんでいる。この資格がないと自由に潜れなくなるのか?
いいえ、現地で承認されているのなら、それを取り締まることはできません。ローカルでの理解が一番大切だと思います。しかし、既存のダイビングのノウハウで、ソロダイビングの安全は確保されているのでしょうか?なにかあれば緊急浮上すればよいと考えるかもしれませんが、その際には減圧障害のリスクがとても高くなります。バックアップ空気源をもって対応することができれば、とても安全マージンが高くなります。
また正しい価値観で潜っているのでしょうか? なにかあったら、それは俺の問題だ。自己責任だ。と考える方もいると思いますが、死亡事故などあれば、現地サービスに迷惑をかけることになります。また事故によりダイビングが危険視され、場合によってはそのエリアが潜水不可となることもあります。また親族の方たちは、本当にあなたが行っていることを承認しているのでしょうか?そういったこともクリアにしていくことも大切だと思います。
まとめとして
山中(JCUE会長)
このテーマを決めるときに心配だったのは、単独潜水を推奨していると思われることです。バディは邪魔だと、じゅうぶんな装備も知識も計画もスキルもなく、単独で潜る人がいる。これはとても困るんです。
伊豆半島で単独潜水ができるのかという質問がありましたが、海上保安庁は単独潜水をものすごく嫌がりますので、東伊豆側はインストラクターでも単独は禁止しているエリアもあります。西側は調査などでスタッフが単独で潜ることもありますが、それを一般ダイバーが見て「単独ができる」と勘違いされても困るんですが。今ソロダイビングをしようとすると、スキルの問題、受け入れの整備、保安庁の理解など、クリアしなければならない問題がたくさんあります。それともっとも懸念することが、事故が起きたときに誰が面倒を見るのかということ。こちらも議論もしていかなければなりません。
今回ソロダイバーを取り上げて思ったことが、ソロダイバーについては誤解なく丁寧に伝えて行かなければいけないということ。全員がソロを目指さす必要はありませんが、いろんな潜り方があっていいと思います。
加藤(講師)
誤解してほしくないのが、ソロでガンガン潜りましょうと言っているのではありません。ソロのノウハウを覚えてもらうことで、いいバディになれますというのがいちばん言いたいことです。自立したダイバーを認めて、海を解放してあげるということです。今は癒し系のダイビングが主流だと思いますが、ダイビングにアドベンチャーなことがあっていいと思うんですよね。それには依存した気持ちでは難しく、自立することが大切だと思いますから、いつの間にか制限されて厳しい業界になっていますが、昔のダイバーたちが遊んでいたように、ワクワク、ドキドキするダイビングができる環境がもっと増えたらいいなと思います。
講師
加藤 大典
ダイバー歴25年、インストラクター歴21年、テクニカルダイビング歴13年。
自社プール完備の都市型ダイビングショップを経営。プロダイバーの育成、探検を目的としたテクニカルダイビングの指導、大深度潜水や地下水脈や沈船の探検を行っている。
2016年より世界的にハイレベルと評価されるダイビングトレーニング機関SDI/TDI/ERDIの日本代表を務める。
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