2019年2月2日土曜日に、NPO MINDER(潜水医学情報ネットワーク)主催の小田原セミナーが小田原市民会館にて開催されました。今年は、第20回目となる記念のセミナーとなり講演は4本、多くのダイバーや関係者が集まりました。JCUEでは、例年通りに会場準備・受付け等をお手伝いさせて頂きました。

【演題一覧】

減圧症発症の機序と予防 水に潜るリスクの本体
講師:齋藤 繁氏(群馬大学大学院医学系研究科麻酔神経科学分野 教授)

 群馬大学は、内陸でありながら高気圧酸素治療の装置を設置し、治療と共に医学部の学生へ治療のメカニズムや体験を行い、教育にも取り入れているという。今回の講演では、内陸でも高気圧酸素治療が必要とされる疾患や、高所潜水、ダム工事やトンネル掘削時の加圧工法時に起こる減圧症の治療の実際と、人が一定以上の時間を水中に留まることが出来ない理由を忍者の水遁の術を例に解説頂いた。

 まず初めに、参加者の興味を引き付けた話は、戦国時代の忍者の『水遁の術』に関する科学的見地にたった実験と検証だ。齋藤先生は、忍者の呼吸法に着目し、特に水遁の術(水中での竹筒呼吸法)を、麻酔科医として「水遁の術ってどうなのか?」と疑問に感じたそうだ。そこで、実際に実験をされたというから驚きだ。実験は、竹筒の長さを変えて、実際にプールに潜り、死腔(酸素の取り込みと二酸化炭素の排出=ガス交換が行われない領域)を調べた。竹筒の長さは、一節(約35㎝)、二節(約70㎝)、三節(約150㎝)を用意。一節で、死腔が150ml。成人の1回の換気量は、おおよそ500ml前後とすると、三節もあったら、自分の吐いた息のかなり部分を吸うことになる。これで、長時間を活動することができるのか? そこでプールにて、竹筒の先に二酸化炭素の分圧を測る装置を付けて測定をしたそうだ。実験をしたことにより体感したことは、二酸化炭素がたまると水圧により、胸廓が圧迫され、何十回と呼吸が出来なかったという。胸廓の表面積は成人でおよそ2000㎠くらいなので、水深30㎝で60㎏、水深60㎝で120㎏、水深1mで200㎏になる。すると、相撲取りに胸の上に乗っかられた状態で何回呼吸ができるかという状態で、そもそも息が出来ないということになる。水遁の術をするためには、もの凄く胸廓の筋肉を鍛えていない限り出来ない。ダイビングの様に圧縮した空気を吸うわけではないので、MAX50㎝くらいが限度との結果がでたそうです。実際の水遁の術は、竹筒一節(スノーケルと同じくらいの長さ)が現実的なのではないかとの見識だ。この他にも、様々な術の仮説が導かれ、非常に興味深く拝聴した。

 群馬大学では、減圧症で収容され直ぐに搬送される人は来ないそうだが、ダイビング後、標高の高い場所に帰宅し、手足がしびれるという症状を訴えてくる方が多いそうだ。しかしその殆どが、減圧症ではないとのこと。女性などでは、重い器材を背負ってビーチエントリーし、肩の神経が圧迫され手がしびれるや、もともとヘルニアによる神経の圧迫で、減圧症に似た症状が現れる事があるそうだ。齋藤先生は、『人間の体というのは、地球上の一気圧、20%の酸素というのが一番よい環境です。高気圧酸素治療といったような高い圧力をかけ、濃い酸素を吸うと言うのはそもそもあまり意味がないというか、悪いことの方が多いはずなのです。では何故、治療の為に使えるかというと、健常でなくなった体にはもう少し酸素を供給した方が良いのではないかという事で、高気圧酸素治療が行われています。なんらかの症状がある場合には、それなりの適用があると考えて頂ければと思います。』と締めくくった。

レジャーダイバーの減圧症発症誘因の検討 -伊豆・沖縄調査-
講師:鈴木 直子氏(株式会社オルトメディコ)

 企業と大学病院が組んで、ダイバーへのアンケート調査を行い、データに含まれるパターンや傾向を明らかにし、科学的な根拠を得られる統計解析を使った研究で減圧症の発症誘因を導き出す調査研究を発表された。

今回は、伊豆と沖縄という多くのダイバーが集まる地域にて、2009年4月~2014年12月に、これら地域でダイビング後に東京医科歯科大学高気圧治療部を受診し減圧症と確定された182例(伊豆93例、沖縄89例)と、健常なレジャーダイバー510例(伊豆93例、沖縄89例)を減圧症群と対象群としたケース・コントロール研究としている。

研究の目的は、減圧症を発症したダイバーと未発症の対照群について、ダイビングの前・中・後の身体状況、環境、行動の調査内容で構成された30項目のアンケートを用いて減圧症の発症誘因を検討し、既報の伊豆(Suzuki N.et al., UHM.2014)および沖縄(Suzuki N.et al., UHM.2018)の調査で検出された知見の報告、両地域のデータを比較することで明らかになった知見を報告することであった。

この調査では、様々な検定により各因子について比較検討され、リスクの大きさを定量的評価した。結果としては、両地域に共通する項目が検出され、危険因子には体調不良や無理な潜水方法に関する項目が認められたという。そして、各地域に特徴的な項目も検出され、地域によりリスク因子が異なる結果と提示された。

今回の調査は、関東在住のダイバーが対象と思われるが、各地域に特徴的なリスク要因(例:ボートorビーチ、ダイビング日数、潜水本数)が非常に興味深かった。鈴木氏は、減圧症を予防する上では、両地域に共通する項目を重視するとともに、地域に合わせた潜水時の注意点や安全な潜水計画を啓蒙することが最も重要な取り組みであると結論づけた。

減圧症の発症誘因と予防誘因の詳細結果については、特定非営利活動法人 潜水医学情報ネットワークのHPに伊豆・沖縄版ポスターが掲載されていますので、是非ともご参照ください。
http://npominder.justhpbs.jp/newpage1.html

軽・重度 減圧症の治療とその予後 過去の事例
講師:土居 浩氏(牧田総合病院脳神経外科)

 土居氏は、日本臨床高気圧酸素・潜水医学会の専門医であり、高気圧酸素治療室の管理医も務めている。現在は牧田総合病院で、第1種装置を使った治療に力を入れている。今回のセミナーでは、一昨年に発表された軽・重症例などを整理し、過去の事例をもとに治療とその予後について語られた。

 減圧症の重症例は、100名の患者がいたとしたら、4~5名くらいの割合である。症状は、様々で、軽症では筋肉や関節の痛み、皮膚のかゆみや疲労感であるが、重症になると呼吸困難、胸痛、腹痛、足が動かない、脳卒中に似た症状なども表れる。
 まず、皮膚型の大理石斑についてだが、用語を知っているがどのような症状なのか見たことがない人も多い。症状は大理石の模様のように、皮膚に紋様が浮き出る。大理石斑が表れたら、そこに気泡がある証拠であるため、どこに症状が表れているかの範囲に注意が必要である。範囲が広ければ広いほど、症状が重く表れるという。
 減圧症はダイビングだけではなく、都市では地下70mでのトンネル工事や貯水池工事、橋の土台をつくる潜函作業等でも起こりうる。気泡は、治療で取れるが、骨壊死については治らない。空気塞栓症は、動脈中にできた気泡によって血流が妨げられて起こる。脳動脈や冠動脈に起これば脳梗塞や心筋梗塞と同じ状態になる。ダイバーの死亡原因で多い病気だ。
 脊髄型では、浮上後、船に上がった後に重症例が発症することが多い。歩行困難や尿閉などの症状が出たら、とにかく時間との勝負になるので、できるだけ早く再圧治療ができる病院へ行ってもらいたい。直ぐに病院へ行けない場合は、まずはその場での純酸素を吸う事が大切。減圧症は、様々な症状が表れるので、それらの評価が難しい。再圧治療をして、改善が見られない場合は、画像診断を併用してゆかなくてはならない。

 牧田総合病院は、2020年に大森から蒲田へ移転し、第1種装置(1人用チャンバー)の高位機種を3台入れる予定とのこと。ダイバーにとって、心強い病院となるだろう。

ダイビングは安全か?
講師:慶松 亮二氏(一般社団法人海中技術研究開発センター 代表理事)

 職業潜水士として52年、潜水指導者として48年の経験に基づくお話をして頂きました。

 ダイビングは水中でするものであるため、器材がなければ息が出来ない。その他、体温の維持、視力、運動能力、コミュニケーション、方向感覚においても環境に阻まれる危険があります。これらは、ダイバーが不安やパニックを引き起こす原因にもなるのです。
この様な世界に、無条件な安全があるはずがありません。そこで、これを補うべき行うものが、安全潜水講習です。訓練によって息ができないという潜在意識の恐怖感を顕在意識でコントロールできるようにすることが重要です。

例えば、水中で不安を覚えると呼吸が早くなり、エアーの消費を促します。また、冷えも同じく呼吸要求量を促進させるので、十分な保温が重要です。不安は呼吸の乱れ、呼吸の乱れは不安感となるので、それらを取り除くための講習が必要となります。水中でパニックに陥りそうな不安が起こったら、まずは「止まって考える」ことが大切で、1つの行動毎に、止まって気持ちと呼吸の整理をすることです。「止まれ!」の意味は、呼吸の乱れる要因を排除すること。しかし、パニックを起こしている時に、そもそも止まって考えられるのか?「苦しい」と呼吸も感情も乱れているのである。止まって考えるためには、日頃から、何かあったら一度止まって考える(気持ちと呼吸の整理)練習が大切です。
講習は、安全になるための防備であり、十分な訓練が必要であり、これらは自立したダイバーを育てる第一歩になる。

自立したダイバーとは、自分の危険は自分で処理をするという意味。自立しなくて良いダイバーはいないということです。バディやガイドは救助者となれても、すべての安全を担保できない。何らかのトラブルがあった場合、救助が来るまでの間は自分の安全は、自分自身で担保しなくてはならないのです。

ダイビングスタイルによる救助の違い

ソロダイビング:救助は来ない(全ての事態に自己対応)
バディダイビング:バディの能力による(打合わせと慣熟の重要性)⇒日替わりのバディなどありえない
ガイドダイビング:比較的早い救助(注意深い相互チェックと自己申告)
体験ダイビング:素早い補助と救助(管理の限界)
潜水講習:ガイドと体験の中間(管理の限界)

 ダイビングを安全に続けるためには、自立したダイバーになるための技術習得はもちろん、日ごろの健康管理も大切です。高齢者・初心者・ブランクダイバーや日頃運動不足を感じている人は、潜水強度を下げ無理のない潜水計画で楽しむことも必要です。

報告:山内 まゆ

過去の小田原セミナーレポート

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