今回3回目となるZoomを利用したJCUEオンラインセミナーは、東邦大学名誉教授、東邦大学理学部東京湾生態系研究センター訪問教授である、風呂田先生に「生態学って面白い」をテーマに講演して頂きました。

ダイバーだから、生物のかかわり・環境とのかかわりを考えてみよう。
知っているようで、理解しているようで、気付いていなかったことに目を向ける重要な機会となりました。
今回の講演は、共生、寄生、競争、ニッチ、捕食と被食、食物連鎖と食物網、住み込み、間接効果と直接効果、等、生物と環境との関りをテーマにした生態学の考え方や用語を解りやすく解説して頂き、「生物好き、環境に興味あり」の海好きの参加者には大変興味深い情報が盛り沢山でした。

中でも、特に興味深い解説をピックアップしてセミナー報告させて頂きます。

気体の世界から液体の世界へ
まずは、陸と海の違いを意識する

(図1)
最初に考えなければいけないことは、自分が今からどういう特性がある場所に潜ろうとしているのか、ということです。最初は“海岸(ダイビング空間の特性)”からスタートしていきます。
潜ってみて最初にわかることは、当たり前ですけれど、陸上と海中が全く違う空間である、ということです。
呼吸ができないということや水温が冷たいということだけではなく、生物の生息環境が全然違います。
それは、気体の世界から液体の世界に入っていくということです。
私たちはこの陸上で、空を飛ぶことができませんから地面という二次元平面の世界を生きています。。
だから人間は、上を意識することはあまりないんですよ。

だけれど、水中では上を見ると魚やプランクトンがいます。
そして、潮に流されてしまう動く世界ですので、同じところにに留まることは難しい。
多くの陸上の生き物と違い、海中の生き物がある一点に留まっていることは少ないんですね。
そういう違和感が本来あるにも関わらず、私たちは潜ると、その違和感を見過ごしてしまうんです。
まず、海中とはそういう世界なんだということを認識していただきたいです。
陸の地面に相当する海底は、私たちが普段見ている地上の世界と似た動かない世界です。その上に、動く世界がずーっと広がっている。
この二つの世界の違いに注意していると、色んなことが見えてきます。
生態学的というのは別にかた苦しい意味で使っているわけではなく、今まで見ていなかった新たな視点で、好奇心を拡大していこう、ということですね。
まず、その地形がどうやってできているのか、噴火・隆起・侵食・堆積などの要素からなる地形に成立ちの知識。
次に、環境と生物の相互作用の知識。
そして、寄生や共生のような、生物間の相互作用の知識、です。
これらをダイバーが身につけることで、新たな発見をして楽しむことができ、それが成り立つにはこういう環境が必要なんだと理解することが大切です。

ダイバーが潜る場所は
地球環境の中で一番面白いところ
(本文)

(図2)
私たちが潜れる環境っていうのは深くても30~40m。
その空間というのは海全体の中で特別なところなんですね。
なぜかと言うと波は崖を削る、崖から土砂が落ちてくる、川の流れが土砂を運び海岸で平らに均す。こうして海岸沿いには浅い空間ができるんです。
その空間が、生物の進化や、生物間の相互作用において非常に重要なところなのです。
太陽の光も当たりますから、生物も集まります。
はっきり言って、地球環境の中で浅い海岸は一番面白いところです。
ここに多様な生物が住んでいることについてはいろんな説がありますが、地球で一番、生物が発展してきた場であることは間違いないです。
地球上で一番ダイナミックな場で、私たちはダイビングできるんです。このことをぜひぜひ多くの方に紹介していってほしいですね。


(図3)

次に、大気中と水中は全く違う空間ですよね。
大気は、1気圧で、窒素、酸素や二酸化炭素の気体の世界で、水中は水の世界。塩分もたくさん溶けていて、圧力のかかり方も大気中とは違い大きな圧力差があります。
大気中だと、空中には鳥や虫が飛んでいたりするくらいですが、水中には栄養塩類、有機物、酸素が溶けているので、海底から水面まで、たくさんの生物がいます。
陸上生物の生息空間が二次元空間的なのに対し、海洋生物の生息空間は三次元空間的なのです。
水は常に流れています。ある空間が同じ状態を保つことはほとんどありません。生物は安定せず、浮き、水と一緒に運ばれます。水は重くて動く、空気とは全く違う水中の世界が楽しめるわけですね。

また、環境が変化する“移行地帯”環境が変わりやすいため、生物の生息の仕方やお互いの関係が複雑なので、いろいろな発見があります。
例えば、潮間帯はたった1.5mほどの変化で、たまにしか潮をかぶらない地帯と、たまにしか潮が引かない地帯が存在します。
水中かそれとも空中かは大きな変化です。
満ちないと行けない、引かないと行けない場所もありますからね。
水面という境界から、生物相の変化をとおして環境激変域のドラマがそこでは繰り広げられているわけです。
ものすごくドラマチックな世界が広がっている、そのことに気付けばもっともっとダイビングが楽しめるようになると思います。

三次元的空間利用


(図4)
水中生物の“三次元的空間利用”を紹介します。
水中の中層には、どこでもプランクトンがいますね。
彼らは、あまり自分で泳ぐこともなく、水中を漂います。
ベントスは、水底にベタッと着いているものを指します。
魚のように、多少流れがあっても自分の行きたいところに泳いで行ける生物はネクトンと呼ばれます。
こういった生態的分類は、生物の種に関係なく、その生活の仕方、場所によって分けられます。
このように生物の空間が立体的だということは、生物の生活の仕方を通して観察することができる、ということですね。
では、例えばフジツボのような動かない動物ベントスがどうして生きていけるのかというと、それは水中のどこにでもプランクトンというエサがあるからです。
人は食べ物を食べるのに手を伸ばしたり動いたりしなきゃいけませんが、ベントスにはその必要がないんですね。
流れてきたエサを食べればいいわけですから。
水底に生物がいっぱいいるということは、水中に浮いている生物に支えられているということです。
だから海は生物生産が非常に盛んなんだということも、観察できるんですね。

ぜひを覚えていただきたい言葉が、ニッチ(Niche)です。

(図5)
ニッチは元々経済学の用語で、マーケットでニッチを獲得するということは、そのマーケットに必要とされているものをつくる、という意味です。
生態学では生態的地位のことで、生物群集内での生態学的居場所、のことを指します。
そこには、地質環境だったり、生物だったり水深だったり攪乱や温度などなど、色んなファクターが絡んできますから、非常に複雑です。
環境が変化すればするほど、新しいニッチが生まれてきます。
海岸線はどんどん環境が変化しますから、それだけ新しいニッチを生む可能性を秘めているんですね。
ニッチの中にも、基本ニッチと実現ニッチとあります。
基本ニッチは他の生物の影響がない状態でのその生物のニッチのことですが、実際には海には色んな生き物がいます。
そこで、生き物同士がニッチを奪い合い、残されたところで実現されたニッチが実現ニッチ、ですね。
要するに、棲み分け、と言いますが、あれは勝ち負けの落としどころがついた結果、という言い方ができます。
実現ニッチが遺伝的に固定して管理されると、それは完全に進化の過程です。
このニッチの奪い合いの繰り返しが現在進行形の進化として紹介することも可能だと思います。
その上で生物相互関係を観てみると、サラサエビはウツボのそばが一番よかったんだろうと。
イシモチにとってはガンガゼのとげに守られているのが一番よかったんだろうという見方ができますね。
テッポウエビとダテハゼとハナハゼも、同じ巣穴に棲んでいたりしますね。
なんでこんなに狭いところにいるんだろうということも、ニッチの概念を使って考えてください。
これは誰も損をしない関係なんです。テッポウエビはダテハゼに敵を見張っていてもらう。
ハナハゼは高いところから見張って巣穴に逃げ込みますから、情報としては多元化します。
また、ダテハゼはベントスを食べ、ハナハゼはプランクトンを食べますから、両者の間に競争はありません。
皆仲良く生活できるわけです。そういうことを通して、生物が進化してきました。
ニッチをめぐって喧嘩するだけではなく,適当に落としどころをつけてニッチを分割していったのが、今の生物集団の特徴なんです。こうやって生物が共に進化していくことを共進化といいます。この共進化に共感していく、こういった紹介の仕方ができるんじゃないかと思います。

(図6)
こうやって、色んな特性を理解していきましょう。
それぞれの種がどんな生活を送り、何を食べているのか。
種が集まって群集という概念に発展して、それぞれの生物の相互的な関係も興味深いことです。
そこで成り立つ、生態系の特徴、食物連鎖。
それを支える場の景観や地形の構造と歴史。
それを元に生命現象の進化の過程というものを、共進化の類進という形で考えていただきたいと思います。
そうやって考えていって、最後に行きつくのは、“海中世界は共進化のフィールドミュージアムである”ということなんですね。
それを守ろうという考えも深まれば、環境保全にも確実に繋がって行くと私は考えます。

以上、風呂田先生の興味深い解説を抜粋して報告させて頂きました。

今回の公演では、「共生」や「食物連鎖」「生態系」など以前から聞いていた言葉にに加えて、「ニッチ」や「共進化」など聞きなれない言葉の解説をいただきました。生き物を見る視点を増やすことができたように思います。知らない魚に出会うと、名前が気になります。そして、名前を教えてもらうとその魚ことが分かったような気がして、興味が薄くなり、次の魚を探そうとするのは私だけでしょうか?魚は、食べることや生活する場所で、他の生き物とかかわりあいながら生きているんですね。今回教えていただいた視点で、ある魚にこだわって、どんな生き物とかかわりがあるのかじっくり観察してみたくなりました。皆さんも試してみてはいかがでしょうか?「共進化」を共感できるようになりたいものです。

風呂田 利夫(ふろた としお)

1948年生まれ。
1970年東邦大学理学部生物学科卒業。
東邦大学理学部生物学科助手、講師、助教授を経て教授、同学部生命圏環境科学科教授。
2013年3月定年 退職、東邦大学名誉教授、東邦大学理学部東京湾生態系研究センター訪問教授。
理学博士。
JCUE正会員、NAUIのインストラクターで大学教員時代にはダイビングの実習を担当 専門は海洋生物生態学。

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