2023年7月26日 JCUEオンラインセミナーが開かれ、 東京海洋大学 海洋環境科学部門 鯨類学研究室 助教 中村玄氏を、講師にお迎えしました。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄

テーマは、『海の覇者“クジラ”に学ぶ』
海との関わりが深い私たち。ヒトはなぜ海を目指すのか。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
JCUE関係のみなさんは、海に深い関わりを持っている方が多いと思います。
哺乳類全般をみると、海との関わりが深いものだと考えます。海、水の中は魅力的な環境ではありますが、私たちの本来の生活圏ではありません。
生活を陸から海へ移してしまった海産哺乳類、もっとも適応がすすんだクジラについて話をしていきます。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
海無し県の埼玉育ち。3年生の後期に加藤先生との出逢いから沖縄のザトウクジラを研究したことが、現在のクジラの研究、調査につながっていて、研究していく中で、クジラの特殊性能力を知りたいと、興味が出てきたのです。

研究略暦は
ザトウクジラの個体数推定
沖縄で、1980年代~2000年に毎年調査。個体数が増えている。
年率10%増えてきているということがわかりました。

クロミンククジラの肝臓中水銀濃度
世界でも汚染が少ない南極海にクロミンククジラは生息しています。食べている餌で水銀量がわかるので調査したところ、1980年代生まれと2000年度代生まれを比較したときに、同じ餌を食べていれば水銀量は変らないはずだが、2000年代生まれの方が水銀量は低かったことで、餌を食べている量が減っているのではないかということを考察。

ミンククジラの頭骨形態
マッコウクジラの頭骨と性的二型
ヒゲクジラ類の鳴音発生器官
八丈島のザトウクジラの生態
東京湾・相模湾における鯨類相など、クジラの研究をしています。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
クジラを求めて、アメリカのロサンゼルス自然史博物館では、アメリカのコククジラと日本のコククジラは、どのようにちがうかを骨で調査しました。また、南米や南極海へ、北極海にも訪れ、世界各国で鯨類の調査をしました。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
生きものの進化を考えたときに、生命の起源は海の中から生まれて魚類から両生類になり、
爬虫類と哺乳類に分かれましたが、哺乳類のうち、
陸で生活することに適応したものと、再び海に戻っていったものがいるということです。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
哺乳類全般で生活の一部を水の中で過ごしているもの、生活の大半を水の中で過ごしているものに分かれます。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
鯨目、海牛目、鰭脚類の3グループが、主な海産哺乳類と呼ばれています。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
脊椎動物の進化から海産哺乳類をみると、生活史の大半を水界に依存するイルカやクジラの仲間の鯨目は、豚や牛、カバに一番近いようです。
ジュゴンやマナティは、海牛目で、象に近く、アザラシやアシカなどは、犬に近い鰭脚類です。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
クジラとは何か。クジラの仲間は、約90種類ほど。生物学的には、大きく2つに分かれます。
ヒゲクジラ類(グループ)と、ハクジラ類(グループ)です。生き方、形態が異なります。クジラとイルカは、生物学的に明確には線引きがあるわけではありません。体長4m未満の種類はイルカとよばれている説はありますが、例外で、シロイルカは4mを超えますし、カワゴンドウ、ユメゴンドウ、ハナゴンドウなどは体長2~3mです。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
種類の数は、毎年更新されます。新しいものが見つかることもありますし、今までは同じ種類だと思われていたものが別種だとされることもあります。逆に今までは別種と思われていたものが、統合されることもあります。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
口の中の構造
ヒゲクジラの口の上顎には歯茎が角質化したクジラヒゲがあり、主に群れをつくっている小さな魚やオキアミなどをこしとって食べます。クジラヒゲが濾過器官になります。
ハクジラは、歯があります。ハクジラの中でも、マッコウクジラの雌や、アカボウクジラは、歯が生涯はえてこないものもいます。

顔つき
ヒゲクジラは頭が大きく、三等身になっています。クジラヒゲによって餌を濾過するので、その方が効率が良いようです。
ハクジラは小顔が多いです。

鼻の穴(外鼻孔)の数
ヒゲクジラは、鼻の穴が2つ。
ハクジラは、鼻の穴は1つです。

食べ物
ヒゲクジラは、群れになっているプランクトンや魚などを食べます。
ハクジラは、魚や哺乳類を食べています。

大きさ
ヒゲクジラ 最小6.1m(コセミクジラ♂)、最大33.0m(シロナガスクジラ♀)
ハクジラ 最小1.5m(コガシラネズミイルカ)、最大16.0m(マッコウクジラ♂)

雌雄の大きさ
ヒゲクジラは、メスの方が大きい
ハクジラは、オスの方が大きくなる種類が多い。これは社会形態によるものと考えられています。

社会性
ヒゲクジラは、単独行動。たまに親子でいることはあります。
ハクジラは、社会性が高く、母系社会で群れをつくっています。

声の出し方・音域
ヒゲクジラ類は、低周波を出すのに対して、ハクジラ類は高周波を出して餌を取ることもわかっています。

クジラは潜水能力のエキスパート
ヒゲクジラと、ハクジラを比べ、その潜水能力の差もお話いただきました。

潜水能力比べ
無呼吸時間(息をとめられる時間)ヒト2分~(最大11分)  鯨類3時間42分
潜水深度  ヒト 10m(最大 102m)  鯨類 3000m (アカボウクジラ)
遊泳速度(200m) ヒト3分(世界記録1分46秒) 鯨類14.4秒(シロナガスクジラ)

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
Q:仮に「自分の体を好きに改造できるので、明日から海中で生活してください」と言われたら、克服すべき課題は何でしょうか?

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
水の密度は、空気の800倍、粘性は60倍高い。水中では動きづらい。
鯨類の祖先は陸生の哺乳類で、半陸半水で浅い水辺で生活していました。

進化の過程で、4900万年前アンブロケタス~4000万年前場バシロザウルス~
現在の現生ヒゲクジラへと進化。
流線型の体
推進器(尾びれ)の獲得
体毛・後肢の消失(現在のクジラには骨の痕跡が体内に少しだけ残っている。)
鼻の移動(頭頂部へ)
体形を水の抵抗をおさえる流線形に変えました。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
海水の塩分濃度(3.5%)は、細胞内(0.9%)より高い。
(海水を飲んでしまうと、脱水、水分を取られてしまう。)

水中で生活するために必要なこと
海水から (海水を飲むことが出来る。強靱な腎臓を持っている。)
餌から  (魚、イカ、タコなど水分含量が多い)
代謝水から(有機物を分解するときに二酸化炭素と水が確保できる)

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
尿 腎臓を大きくした
  小腎を多くした
汗などによる蒸発

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
 水は空気の24倍、熱伝導率が良い
 海水温は、体温より低いので低体温症になります。
 断熱     皮下脂肪の発達
 血管システム 静脈と動脈が近く熱のロスをなくす対向流システムが発達

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
水は光を吸収する。200m以深は、ほぼ真っ暗で、まわりは見えない。
しかし、鯨類は水深3000mまで潜って餌を食べる。自分で発したエコロケーション
音響定位を使っている。深い海でもハクジラは音波を使って周囲の様子を知ることが
出来るようになりました。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
効率泳ぐことが出来るために、鼻の位置が変化しました。

 効率の良い呼吸
 ヒト  肺の容積5L  呼吸時間4秒 通常換気率 10%(0.5L)
 鯨類  肺の容積1500L 呼吸時間2秒 換気率   80%(2.5L)

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
気管が太く短い 肺が横隔膜と接する面が広い
肋骨の関節が緩くなった

ドローンパイロットによる映像を上映。
以前は、小笠原や、沖縄で観察されていたザトウクジラですが、近年は伊豆七島の
八丈島でも観られるようになりました。
2015年くらいから調査をしている。船の上からではわからなかったことも、
ドローン映像でわかるようになりました。
ザトウクジラの呼吸の様子が観察出来る。
約1000Lの肺の空気を一瞬で80%換気しているというのは驚きである。
潮吹きは、クジラの吐き出した呼気。水面下から吹くので、頭の上の水が吹き飛ぶ。
高圧で吹き出すので急激な減圧になるため、水蒸気が白く見える。
また、気温によっても白く見える。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
空気呼吸・授乳の壁
生活のすべてを水中で過ごすのは、鯨類と、海牛類のみ
出産時は逆子  生まれてからすぐ呼吸が出来るように尾から出てくる。
濃厚な母乳   脂肪分が多く濃厚なため、海水中で拡散しない。
シャチの授乳の写真から
母親の乳首は肛門と生殖孔の横に1対あり、子どもそこに口を近づけて、舌で乳首を
巻きつけると、母親が母乳をだすようになっている。

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄
酸素の保持能力が高い
・鯨類は、血液・筋肉中に相対的に酸素を多く保持する。単位あたりの酸素量が多い。
・血液量が多いものほど、潜水時間が長く、潜水能力が高い。

心拍数を落とす
・拍動数を1/5半分にする
 潜水を始めて、だんだんと心拍数が下がり、上昇するときは上がっていく。
 深いところでは拍動が非常にゆっくりになって体内に送る血液の量を調整している。
 酸素を蓄え、無駄にしないように使っている。

体の一部の血液の流れを止める
・酸素要求量の少ない末梢部分の血流を制限する

©️東京海洋大学鯨類学研究室 中村玄


 海産哺乳類の進化をあらわした棒グラフ
鯨類は、5500万年前位から海に進出。海牛類は、4900万年前と言われています。
鰭脚類は、2500万年前。ラッコは160万年前、シロクマは50万年前。
ヒト (ホモサピエンス)は、20万年前くらいといわれています。


 クジラは、5500万年以上かけて体の形を変えました。
 ヒトは、短期間にさまざまな道具を作り出し、水中にも進出しました。


中村玄氏は、セミナーの数日前まで、学会のためにアラスカに滞在されていました。
寒いくらいの気候で過ごされて帰国されたばかりで、お話の機会を頂きました。

この後、質問の時間になりました。

宮城県でストランディングのマッコウクジラの現場でご一緒されたA氏から、その大きさと、神秘的な形に感動したことから、質問がありました。
中村玄氏からは、聖書の中にも登場しているクジラ、その大きさからも神秘的な生きものととらえることもあります。人々の生活や考え方に影響はあるかもしれません。
ノルウェーなどでは、自然の恵みとして水産物として利用していました。欧米諸国では、食料としてより、エネルギー源としてクジラを利用していましたが、エネルギー源が石油に変ってきたことで、捕鯨反対という国民性が出てきたのかもしれません。というお話でした。

また、クジラの酸素保持について、ブラッドシフト(血液が末梢から中心部に集まってくる事で、体熱が奪われる状態)イルカなどの水中に棲む哺乳類が持つ特殊な能力は、ヒトにもあるのか。そのほかクジラの役割についてなど様々な質問がありました。
ザトウクジラの個体数が増えているのは、温暖化の影響があるのでしょうかという質問には、海水温の変化より、黒潮の大蛇行などの方が、影響があるのではないかということでした。
八丈島のクジラも、近年観られる用になりましたが、冬場なので餌を食べていなければ、生態系を乱すことにはならないのではないかと考えます。ということでした。

セミナーの終わりに、中村玄氏の研究室にあるクジラの骨を見せて頂きました。
その骨は、クジラの背骨で、大きさは縦が500mlのペットボトルの大きさで、横も同じくらいのサイズのもので、重さは、530g。
クジラの骨は多孔質で、表面に小さい穴がたくさん空いている性質があり、緻密層が少ないため、見た目よりも実際は軽いそうです。
重力に解放された環で過ごしていることと、海の中で浅い場所から深い場所への移動をすることで、非常に大きな範囲での活動に適したことでそのようになったと考えられているようです。

それに対して、ジュゴンやマナティは、浅い水深で生活しているので、骨の緻密層は多く、骨が重いことで水の中で安定しているそうです。

クジラは5500万年以上かけて体の形を変えたといいます。クジラの骨から様々な想像がつきない奥の深いお話でした。

クジラは国内各地であがると、漂着ゴミの扱いになってしまうので、骨格標本を作るためには砂に埋める作業があります。大半の肉を除いた状態で埋めて、3年くらいかかるそうで、6年後に掘り起こされた骨は、ボロボロで、土に戻りかけていたことがあるそうです。

中村玄氏はセミナーの翌日も千葉県で上がったツチクジラの解体に携わると伺いましたが、クジラの味覚についての調査で、舌を持ち帰るとおっしゃっていました。その話を後日またお聞きしたいと興味が募りました。

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