2024年12月16日に開催されたJCUEワークショップでは、現場で用いられているメディカルチェックを「安全にどう活かすか」をテーマに、20名以上のインストラクターが参加し意見交換を行いました。
年齢・経験・既往歴・当日の体調や海況など、現場判断の迷いを共有・言語化することを目的とした場となりました。
メディカルチェックの歴史を知る
ワークショップ冒頭では、JCUE理事の村田幸雄氏より、日本における「メディカルチェックの歴史について」解説が行われました。

1970年代、日本にダイビングが本格的に紹介・普及し始めた当初は、講習前に医師の診察を受けることが事実上の前提とされ、特に耳鼻咽喉科的な評価が重視されていました。
耳管の通気性や副鼻腔の状態、鼓膜の確認などが重要視され、「耳抜きができなければ潜れない」「鼻炎や蓄膿症があれば完治するまで不可」といった、医学的判断がそのまま潜水可否につながる時代でした。この背景には、米国のLA County Diving Program など、医師主導で構築された教育体系の影響があります。
その後、1980年代に入りダイビングスクールやショップが全国的に増加すると、医師診察を前提としつつも、受講者自身による健康申告と、指導者が異常を感じた場合に医師受診を促すという運用が徐々に広がっていきました。メディカルチェックは依然として「医師が行うもの」という意識が強く残る一方、現場判断の比重が少しずつ高まり始めた時期でもあります。

1990年代になると、PADI をはじめとする国際教育団体の日本展開が進み、RSTC Medical Statement に代表される問診票方式が本格的に導入されました。「はい/いいえ」で回答し、YES項目があれば医師の署名を求めるという形式は、現在に至るまで広く使われています。この流れの中で、耳鼻科的評価は詳細な診察から問診項目の一部へと位置づけが変化していきました。
2000年代以降、レジャーダイビングの一般化とともに、メディカルチェックは自己申告と医師署名(必要時)によるスクリーニング型が標準となります。一方で、実際の事故や中止事例を振り返ると、耳抜き不能や鼻・副鼻腔トラブルといった問題は繰り返し指摘され続けており、「書類上は問題ないが、現場では不安が残る」という状況が少なくないことも共有されました。
さらに2010年代以降は、高齢ダイバーや心疾患、服薬中のケースなど、健康リスクの多様化が進み、医師任せ・自己申告任せのメディカルチェックに対する疑問の声が、指導者側から多く聞かれるようになります。

2020年には、UHMS や DAN の医学監修を受けた新しい国際的メディカルスクリーニング方式が発表され、日本語版の導入も進んでいますが、ダイビング医学に不慣れな医師が多いことや、耳鼻科評価が形式化しやすいといった、日本特有の課題も浮き彫りになっています。
現在使われているメディカルチェックが「完成形」ではなく、事故や課題への対応として積み重ねられてきた結果であることを示すものでした。制度の成り立ちを理解することで、書類に頼るだけでなく、現場での対話や観察、判断がなぜ重要なのかを改めて考える話となりました。
グループワークで見えてきた現場のリアル

後半のグループワークに入る前に、参加者には簡単なアンケートに回答していただき、それぞれがメディカルチェックをどのように捉えているのかを事前に確認しました。そのうえでグループに分かれ、「メディカルチェックで一番迷う項目は何か」を共通テーマに意見交換を行いました。
参加者からは、
YES項目が出たとき、どこまで聞き取るべきか
医師の診断書があっても不安が残るケース
常連客や高齢ダイバーへの対応の難しさ
事前確認と当日確認の使い分け といった、テキストだけでは答えが出ない現場ならではの悩みが多く挙げられました。
議論を通じて浮かび上がったのは、「潜らせる/潜らせない」という二択だけでは整理しきれない現場の難しさでした。判断の結果そのものよりも、「どのような情報をもとに判断したのか」「その判断を、どのような言葉で参加者に伝えたのか」というプロセスに注目する意見が複数のグループから示され、一方で、その捉え方や重みづけには参加者ごとの違いも見られました。
まとめ
今回のワークショップを通じて、メディカルチェックは「潜れるかどうかを決めるための書類」ではなく、「安全に潜るための条件を一緒に探すための対話の入口」であることが改めて確認されました。
特に参加者の多くが強い関心を寄せていたのが、高齢ダイバーへの対応や、既往歴をどのように捉え、どこまで踏み込んで確認するべきかという点でした。年齢や過去の病歴そのものが即座に可否判断につながるわけではない一方で、体力や回復力の個人差、服薬状況、当日の体調などを含めた総合的な判断の難しさが、各グループで繰り返し話題に上がりました。
また、現在使用されているメディカルチェック表についても、「現場の実態に十分対応しきれていないのではないか」「記入のしやすさや、参加者との対話につなげる工夫が必要ではないか」といった意見が多く聞かれ、チェック表そのものの改善や見直しの必要性を感じている参加者が少なくないことがうかがえました。
判断に迷う場面が生じることは、現場で安全と向き合っているからこそ避けられないものです。その迷いを個人の中で抱え込むのではなく、言葉にして共有し、他者の視点に触れることが、結果として事故防止や判断の質の向上につながる——本ワークショップは、その可能性を確認する場となりました。
JCUEでは、こうした現場の声を踏まえながら、安全潜水を支える仕組みや情報の整理について、引き続き検討を進めていく予定です。今後もセミナーやワークショップを通じて、現場の知恵を共有し合う場を継続していきます。
報告:山内まゆ
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