2021年11月10日に開催されたJCUEセミナーは、映像家の中川西宏之氏にご登壇いただき、沖縄西表島その周辺海域に生息している亜熱帯性海草「ウミショウブ」の現状をお話頂きました。小魚が身を守るために隠れ、草食性生物のエサとなる「ウミショウブ」が減少している今、海から緑が消えたらどうなるのか?貴重な自然が失われたらあなたならどう思うのか?中川西氏と西表島で、保護活動をされている高祖氏と共に、ウミショウブをどう保護すべきかを考えたセミナーでした。

<もくじ>
1. はじめに
2. ウミショウブの生態と特徴
2.1 受粉プロセス
2.2 生息環境
3. ウミショウブの減少原因
3.1 アオウミガメによる食害
3.2 気候変動と環境変化
4. ウミショウブの保護活動
4.1 食害防止枠の設置
4.2 地域コミュニティとの協力
4.3 資金調達の課題とクラウドファンディング
5. 保護活動の課題と今後の展望
6. まとめ

1. はじめに

ウミショウブは、沖縄・県西表島が北限と言われる稀少な海草の一種で、その独特な生態と受粉プロセスから「海を走る花」とも呼ばれています。この海草は、美しい花を咲かせることで知られ、地元の生態系や文化に深く根ざした存在です。しかし、近年その個体数が減少傾向にあり、特に西表島では急速な減少が観察されています。中川西氏は、何年にもわたり実際に現地へ赴きウミショウブの現状を映像に撮りまとめ生態的特性、その減少の原因、そして保護活動の取り組みと課題について訴えてきました。本セミナーで、語っていただいた取り組みと課題について検討します。

2. ウミショウブの生態と特徴

ウミショウブは、熱帯から亜熱帯の沿岸域に分布する海草で、特に浅瀬やラグーンに生息しています。根茎から長い葉を伸ばし、海底にしっかりと根を張って生育するため、海底の砂を固定し、他の海洋植物や海洋生物の生息場所「ゆりかご」を提供する役割も担っています。

2.1 受粉プロセス

ウミショウブの最も興味深い特徴の一つは、その受粉プロセスです。ウミショウブの雄花は受粉時期になると水面に浮き、風や波に乗って移動します。雌花にたどり着き、吸込まれるように接触することで受粉が行われます。このように、ウミショウブの受粉は水面上で行われることが多く、そのためには特定の水流や風の条件が必要です。これは、繁殖が成功するためには特定の環境条件が整っている必要があることを意味し、生息地の制限にもつながっています。時期としては、5~9月の大潮の日といわれています。

2.2 生息環境

ウミショウブは、光の透過率が高い浅瀬での生息が一般的で、栄養豊富な水域を好みます。また、海水の温度や塩分濃度の変化にも敏感で、これらの条件が安定している環境でなければ、繁殖や成長が難しくなります。西表島では、これらの条件が整った沿岸部でウミショウブが繁茂しており、特に祖内、美田良、崎山湾などの地域でその姿を見ることができます。

3. ウミショウブの減少原因

ウミショウブの減少は、近年ますます顕著になっており、その原因は多岐にわたります。以下に、その主な原因を詳述します。

3.1 アオウミガメによる食害

ウミショウブの減少に大きく影響を与えているのが、アオウミガメによる食害です。アオウミガメはウミショウブを主食とし、特にその新芽を好んで食べます。近年、アオウミガメの個体数が増加しており、それに伴ってウミショウブへの食害が深刻化しています。アオウミガメの個体数増加の原因には、自然保護の成果としての繁殖成功率の向上や、昔はアオウミガメを食べていたなどの食生活や漁業活動の変化によるものなどが考えられますが、これによりウミショウブの生息域が急速に縮小しています。

セミナーでは、2013年7月と2021年1月に撮影した同じ海域の様子を映像で確認をしましたが、カメの食害によりほぼ消失され、魚類は激減しています。

3.2 気候変動と環境変化

気候変動もウミショウブの減少に影響を与えています。海水温の上昇や、異常気象による海水の塩分濃度の変化は、ウミショウブの生育に必要な条件を乱し、その繁殖力を低下させる要因となっています。さらに、人間活動による海洋汚染、特に農業からの排水による栄養塩の過剰供給も、ウミショウブの生息環境に悪影響を与えています。これにより、海草の健康状態が悪化し、ウミショウブが健全に成長することが難しくなっています。

4. ウミショウブの保護活動

ウミショウブの減少に対応するため、さまざまな保護活動が展開されています。以下に、その具体的な取り組みと成果、そして直面している課題について説明します。

4.1 食害防止枠の設置

ウミショウブの保護において最も効果的な方法の一つが、食害防止枠の設置です。この防止枠は、ウミショウブが生息する区域を囲むように設置され、アオウミガメの侵入を防ぎます。現在、高那、祖内、美田良、崎山湾などの4カ所に設置されています。崎山湾は、環境省が保護区に指定しているので、税金で枠を設置し国が保護をしております。
その他の地域は、高祖氏が中心になり助成金等で、地元の方と協力して保護を行っています。
その効果は一定の成果を上げており、これらの区域ではウミショウブの再生が確認されており、食害の減少が顕著です。しかし、網鳥湾にも昔ウミショウブの藻場がありましたが、食害防止枠がなく、そこは全滅してしまいました。

4.2 地域コミュニティとの協力

ウミショウブの保護活動は、研究者だけでなく、地域コミュニティとの協力によっても支えられています。地域の人や教育機関と連携し、ウミショウブの保護に対する理解を深めるためのワークショップや説明会が定期的に開催されています。しかしながら、漁業者、観光業やマリンスポーツ事業者へのアプローチがまだ弱く、今後の課題となっています。

4.3 資金調達の課題とクラウドファンディング

ウミショウブの保護活動には多大な資金が必要です。食害防止枠の設置や維持、研究活動の継続には、かなりのコストがかかります。そのため、クラウドファンディングや地域住民からの寄付を通じて資金調達が行われています。例えば、高祖氏は、地域の環境保護団体と協力してクラウドファンディングの実施や、助成金を申請し支援を得ています。このような資金調達の取り組みは、保護活動の持続性を確保するために不可欠です。
がしかし、今現在は活動を行うための資金が十分とは言えず、活動に制限がかかっているのが現状です。

5. 保護活動の課題と今後の展望

ウミショウブの保護活動は着実に進展していますが、依然として多くの課題が残されています。以下に、主な課題と今後の展望について考えます。

5.1 持続的な資金確保の必要性

保護活動を継続するためには、安定した資金確保が不可欠です。クラウドファンディングや地域住民からの寄付は一時的な資金源に過ぎず、長期的な視点での資金調達が求められます。例えば、企業スポンサーシップの拡充や、地方自治体からの補助金の獲得など、多様な資金調達方法を模索する必要があります。さらに、ウミショウブの保護活動が地域の経済発展や観光業に寄与することを示すことで、より多くの支援を得ることが可能です。
そのためには、多くの人に危機的状態にあるウミショウブの現状を知っていただく必要があります。

5.2 科学的研究の推進

ウミショウブの生態や繁殖に関する科学的データは、まだ不十分です。そのため、さらなる研究が必要であり、これにより、より効果的な保護手法の開発が期待されます。特に、ウミショウブの成長サイクルや受粉プロセス、環境変動に対する耐性などについての詳細な調査が求められます。また、アオウミガメの行動や生態に関する研究も重要であり、ウミショウブとの相互作用を理解するためのデータ収集が必要です。

5.3 環境教育の強化

地域住民や観光客に対する環境教育は、ウミショウブの保護活動を成功させるための鍵です。特に、子供たちへの教育を通じて、次世代に自然環境の大切さを伝えることが重要です。これには、学校教育への取り入れや、地域イベントでの啓発活動が含まれます。また、観光客に対しては、ウミショウブの重要性を理解してもらうための情報提供や、自然観察ツアーの実施が効果的です。

5.4 地域社会との連携強化

ウミショウブの保護活動は、地域社会全体の協力が必要です。地域の漁業者や観光業者と連携し、ウミショウブの生息域を守るための取り組みを強化することが求められます。例えば、食害防止枠の網で天然もずくを育てることを漁業者に提案するなど。これにより、ウミショウブの生息環境を保全しながら、地域の経済活動とのバランスを保つことができます。

6. まとめ

ウミショウブは、西表島の生態系において重要な役割を果たす海草であり、その保護は地域の生物多様性の維持や環境保全に不可欠です。現在、アオウミガメによる食害や環境変動の課題に直面していますが、研究者や地域コミュニティ、自治体の協力によって、さまざまな保護活動が展開できると考えます。これらの取り組みを継続的に発展させるためには、持続的な資金確保や科学的研究の推進、環境教育の強化、地域社会との連携が不可欠です。

今後、ウミショウブの保護活動がさらに進展し、地域の自然環境と経済活動の調和が実現することで、西表島全体の持続可能な発展に寄与することが期待されます。ウミショウブの保護は、単に一つの種を守るだけでなく、海洋生態系全体のバランスを保ち、将来の世代に豊かな自然を継承するための重要な取り組みです。

あと何年、このウミショウブを守ることができるのかは誰も予測ができません。海を走る花を実際に観察し、その環境を感じることで新たなる知見も開けるかもしれません。
今一度、中川西氏の撮影した貴重な映像を再視聴して頂き、是非とも一度、西表島に足を運んでみませんか?

この開催報告が、ウミショウブの現状と保護活動に対する理解を深める一助となり、さらなる保護活動への関心と支援が広がることを願っています。

報告:山内まゆ

開催告知

中川西さんのプロフィールと中川西さん撮影のウミショウブの動画はこちら

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