4月7日(土)に開催されたJCUEフォーラム第3部は、中村卓哉さんの講演です。大浦湾・辺野古と聞くと、Newsなどでも取り上げられ政治的色合いを感じさせる場所。がしかし、卓哉さんは純粋に大浦湾の自然と生物に焦点を当て、貴重な海を観察し記録することをライフワークとしています。今回は、豊かな生態系を育む大浦湾・辺野古の今を話して頂きました。

目次

豊かな環境

大浦湾は、沖縄本島中央部の東岸、名護市南部に位置する場所にある。周囲には、山原の森が広がり、大浦川と汀間川の2本が注ぎ込んでいる。豊かな森からは、栄養たっぷりな水が海へ注ぎ込まれているという。卓哉さんは、川の調査で上流まで辿り観察を続けているそうだ。『手つかずの自然が残り、多くの滝が存在した。滝壺は、いったん流れを抑制する効果があるので、赤土が直接海へ流れこまない効果もある』という。

森からの栄養豊かな水は、河口のマングローブを育てる。そこから水は、海へと注ぎ干潟、泥地、藻場へと続く。
卓哉さんは、このような水の流れを『グラデーション』と表現する。撮影時に、岸からエントリーするとバスクリンの様な濁った緑から、泥の色、そして濃い青に水の色の変化が判るそうだ。これは、森の栄養が海に巡っているまさに【いのちの色】と語られた。

多様な生物

山原の森に流れる川には、ナンヨウボウズハゼやテナガエビ、シマヨシノボリの産卵や抱卵など、多様な生物も育まれている。そして、マングローブには「トントンミー」と呼ばれるミナミトビハゼが水際に棲みつく。大浦川の河口は、ミナミコメツキガニが砂の中の有機物を食べて泥団子を作り、シオマネキが大きな爪を海に向かって振っている光景が見られる。干潟は、栄養の貯蔵庫であり、潮が満ちることにより栄養分が海へと流れゆく。

岸から海へ出ると泥地では、甲殻類やハゼが住み、日本では大浦湾でしか見られないニシヒラトゲコブシも生息しているという。キクメイシモドキの付いたスイショウガイが水を浄化しながら歩いている。その先には、50匹ものハマクマノミが棲みつく根があるそうだ。砂地には、ウミエラやオオウラハネウミシダ、クラゲムシ、トウアカクマノミがついたイソギンチャクが生息している。海草藻場の海域では、絶滅危惧種のジュゴンも確認されている。ここ大浦湾の面白さは、マクロ生物も豊富で、30種近くの新種も見つかっているというから驚きだ。

貴重なサンゴが生きる海

大浦湾には、驚くほど豊富なサンゴが息づく。泥地を抜けた場所には、ユビエダハマサンゴが400mくらい続き、浅場にはテーブルサンゴが群をなす。サンゴの王様とも表現されるパラオハマサンゴの大群生もあるという。

一番の見どころは、『アオサンゴ』の山脈。卓哉さんは、このアオサンゴを『大浦湾の主』と呼ぶ。大浦湾で潜る時は、必ずこの主に挨拶に行ってから撮影をするそうだ。アオサンゴで有名な場所は、石垣島の白保にあるが、サンゴの形状が違う。白保は、角張った板形状であるが、大浦湾のアオサンゴは、棒状である。これら棒状のサンゴが重なり、連なり高さ12mにもなる山脈をなしているという。全体の大きさは、50×30mであり、ここまで成長するには3,000年もかかるそうだ。
サンゴは通常、浅瀬に広がり生息するものとイメージするが、大浦湾ではトップが‐18mにあるサンゴの根を見つけたり出来るという。深い場所にも、サンゴが成長し生態系を育んでいるが、辺野古埋め立てによる制限区域等で思う様に観察が出来ない苦悩も伺えた。
最後に、貴重なサンゴの動画を見せて頂き、大迫力のアオサンゴの神々しさ、様々なサンゴが密集し礁を形成している現状をご報告いただきました。

最後のメッセージ

卓哉さんは、「この大浦湾は、沖縄本島でありながら様々な生態系が育まれ、多種類のサンゴが生きている貴重な海。環境が整わなければこの生態系は見ることが出来ない。西表島を凝縮したような環境が残る海。」と参加者に伝えた。

何千年も繰り返し成長し、魚のゆりかごになっているサンゴ。サンゴが死ぬとガレバとなるが、それで終わりではなく魚が産卵をし、多様な生物の住処となる。その隣では、新たなサンゴのいのちが生まれ、環境を育んで行く。貴重な生物多様性の息づく海をこれからも精力的に撮影し続ける卓哉さん、一人でも多くの方にこの海を紹介したいと語られた。

まとめ

ダイバーであるならば、大浦湾・辺野古の海が今、どうなっているのかが気になるだろう。その前に、この海はどのような環境で生態系を形成しているのか知らないことにも気づかされた。今回、短い時間であったが、山原の森から海へつながる生態系の重要性と、そこに息づくいのちの素晴らしさに感動を覚えた。海を守るには、その周りの環境が循環していなければ守ることは出来ない。ひとつでも欠けてしまえば、循環が途絶えてしまうと言う事実。心に深く刻み込まなければならない。

辺野古では、護岸工事が進められているが、潮流の変化や土砂の流れ込みなど懸念される。この豊かな生態系が、いつまでも保たれることを切に願う。
中村卓哉さんは、これからもライフワークとして大浦湾・辺野古の海を観察・撮影し続けます。今回、お話しいただいた大浦湾については、写真集『わすれたくない海のこと 辺野古・大浦湾の山・川・海』で詳しく紹介されています。生物多様性の海を感じる1冊となっておりますので、お勧めです。今年の9月11日からは、ニコンプラザ新宿「THE GALLERY」にて、大浦湾・辺野古の写真展を開催されるそうです。ここで発表される写真は、なんとその殆どが撮りおろしとのことですので、非常に楽しみですね。きっと大きな写真で、あの『主』とも会えると思うと今からワクワクしてしまいます。どうぞ皆様、足をお運びくださいね。

報告:山内まゆ

中村 卓哉さん著書一覧

「わすれたくない海のこと 辺野古・大浦湾の山 川 海」

生物多様性の海として知られる辺野古・大浦湾。山から海をめぐり、豊かな環境で暮らす生きものの姿と、それをつなぐ水の旅を捉えた写真絵本。
(偕成社)

「海の辞典」

海にまつわる素敵な言葉を四季折々の美しい海の写真とともに綴る。
(雷鳥社)

「パプアニューギニア 海の起源をめぐる旅」

世界一のサンゴの彩り、歩くサメ、豊富な魚たちが、まるで天然のアクアリウムを思わせる奇跡の海。パプアニューギニア・ダイビング親善大使の著者がおくる、手つかずの自然を堪能できるダイビングガイド&写真集。
(雷鳥社)

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