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【開催報告:JCUEフォーラム2019 第1部】
「Planet of Water」 ~”水の惑星”に暮らす人と生き物~ 高砂 淳二氏

2019/4/6(土)に開催されたJCUEフォーラム第1部は、ネイチャーフォトグラファーの高砂淳二さんをお招きし、いのちの源である水を通して生きる人と生き物。水の惑星、地球を語って頂きました。

水の循環を感じる

私達の身体は、2/3くらい水でできています。毎日、水を飲んでは排出し、人間の身体や動植物の中も通り抜けているのです。水を汚すことは、そのまま自分の身体や周りの動植物を汚す事だと、つくづく感じています。
ナイアガラの滝では、満月の日に夜中から早朝まで、滝のしぶきに薄らとかかる虹を撮影してきました。世界でも1,2を争う水流で、もの凄い量の水がぐるぐると巡り海に入るのです。ウユニ塩湖では、積乱雲から発生した雷が塩湖に映る光景を撮影しました。水の状態というのは、水から水蒸気、雲になり、雨から氷や雪にも変化しながら、地球を巡っています。
南アフリカでは、サーディンランを撮影に行きましたが、残念ながらサーディンランは見られませんでしたが、イルカやクジラと出会えました。地球の表面も2/3は海で覆われており、その海で生き物たちは育まれ、全ての陸上のいのちも、元は海から上がったと言われています。水はいのちを育む一番大切なものであり、私達には水は無くてはならないものなのです。

いのちを見つめる、水めぐる旅

コスタリカ
コスタリカのオスティオナルビーチでは、9~10月の下弦の月の頃に何十万頭におよぶヒメウミガメが産卵にやってくる奇跡の現象「アリバダ」が始まります。世界の海を旅していた母ウミガメが、産卵の為に生まれた海岸に懸命に上陸し砂浜に穴を掘り、卵を産み落とし、その穴を埋めてから、再び海に帰っていく。そして、ハッチアウトしたウミガメの赤ちゃんも、必死に海へ向かう。だいたい20年くらいしてから、またこの海岸に戻ってくるが、どこに自分の故郷があるのかが判っている不思議。過酷な生存競争を生き抜いて、0.1%の確率でしかないのです。ライセンスを持ったガイドが、この海岸をコントロールし、貴重な生態系を守っているのです。

チャーチル
優しい眼差しで、子供を見つめ育てるホッキョクグマの親子と出会う。母グマは、雪の中で出産し3ヶ月ほど母乳で育て、その後は穴から出て子育てをする。妊娠をするときの健康や栄養状態により、何頭産むのか身体が決めるが、最近は栄養状態が良くなく1~2頭となり小クマが減っていると言われている。川が凍り始めると海へ向かい、アザラシ漁を始めます。海で食べ物を取り、赤ちゃんを産み育てる時は雪に包まれ、水で生きている生き物なのです。最近は、地球温暖化の影響により、川が凍らずにホッキョクグマたちがゲッソリと痩せてしまったりしている。寒冷地ほど、温暖化の影響を受けやすい。

セントローレンス湾
2月末、カナダ・セントローレンス湾内の流氷の上で、産まれたばかりのタテゴトアザラシの赤ちゃんと出会う。アザラシの赤ちゃんは、一日2キロずつ体重が増えるそうです。母親は2週間子育てをし、ピタッと母乳をあげるのをやめ、泳ぎを教え、4週間くらいで独り立ちする。撮影をしていると、生まれて間もない赤ちゃんは目が良く見えずに、母親と間違えて近寄ってくる姿がたまらなく可愛いのです。アザラシも、氷と水を使って暮らし、いのちを育んでいる。しかし、残念なことにこの撮影の後、急激に気温が上昇しアザラシが生活していた流氷の殆どが溶けてしまったという。この時、出会った赤ちゃんアザラシは、命をおとしてしまったのではないかと言われている。

慶良間諸島・ツバル
 今は、かなり沖縄のサンゴも苦境に立たされていますが、以前の慶良間諸島は浅瀬までびっしりとサンゴがありました。サンゴは生き物で、骨格の中にポリプが集まりマンションで暮らしているような状態です。サンゴには魚達が住み着き生態系を形作り、海の熱帯雨林と言われています。しかし、地球温暖化や巨大なエルニーニョ現象により、白化現象が起こるようになりサンゴの数が半減してしまいました。温暖化は、雪や氷の世界だけではなく、サンゴの世界でも起こっていることです。
 ツバルは、低海抜のため温暖化などで沈み行く国として有名な場所です。取材で訪れた時に、地元住人に海面上昇の事を質問したが、島民はあまり気にしていないようだった。しかし、実際に大潮の満潮時になると、島のあちこちが水浸しになっていた。大らかな国の人たちの暮らすこのような場所に先進国の影響でこのような事が起きていると思うと、申し訳ない気持ちになる。

トンガ
 ザトウクジラと一緒に泳げる場所として有名なトンガ。クジラの子供は好奇心旺盛で、人に近づいてきて遊んだりします。他の地域でもクジラの撮影をしているが、こんなに母子に近づかせてくれる所が無かったので質問をしたところ、ホエールウォッチングのルールをしっかりと作り守っているからだという。クジラが安心して観察をさせてくれるのは、人間次第なのです。最近、フィリピンでクジラの死体があがり解剖をした結果、胃の中から40キロのビニールが出てきたというショッキングなニュースがあり、非常にショックを覚えました。海洋ゴミ、プラスチック問題などがありますが、ウミガメもこのような影響で死んでいるのです。私は世界中を巡り、撮影をしてきましたがこのことに気付いたのは20年前でした。

ミッドウェイ
 ハワイ諸島のひとつ、ミッドウェイですが、コアホウドリの繁殖地になっています。最初に訪れた時は、羽が生えそろわないヒナがあちらこちらにいて、ものすごい数のコロニーが形成されていました。コアホウドリは人を恐れないので、タマゴや鳥を獲りに行く猟師に乱獲され、あっという間に絶滅に近い状態にまで追い込まれました。また、ヒナは母鳥から口移しでエサを貰っています。太平洋ゴミベルトの中心に位置するこの島では、プラスチック片を雛たちに餌として与え、砂浜には胃袋にプラスチックが溜まって絶命した幼鳥の死骸が目につくようになったのです。

高砂さんは、世界を旅し撮影を重ね、生き物たちの命と向き合うことで、今、地球に起きている問題に大変なショックを受け、何か行動を起こさなくてはならないと考え、海の環境NPO法人OWSの立ち上げ時に理事として参加しました。OWSでは、サンゴ調査に力を入れた活動もしており、対馬で調査をした時にサンゴにからまる海中ゴミを見つけ、唖然とされたそうです。

地球のシステム

 地球は、我々に必要な栄養、美味しいと思うもの、薬になるもの与えてくれる。例えば、植物を鉢植えで育てていると水を与えていても枯れてしまう事もあります。しかし、大地に根を下ろしていると水や手入れをしなくてもパワーを得て成長をします。これは、地球自体がそのような完璧なシステムを持っているからなのです。その地球で水は、人や動植物の身体を通り抜け、大地に浸み込み、伏流水になり、川や海へ流れその中で生物が暮らしています。水には、養分を運ぶ、情報を運びながら様々な場所へ流れ着き、またそれらを取り込みいのちにつながる。それは、無限にあるものではなく、人が好き勝手にプラスチックを使い捨てて、食べ物を乱獲し、開発等を行うことによって、簡単に地球のシステムは壊れてしまうのです。
 私たちは、海から生まれてきました。体液や血液は海水の成分とほとんど同じなのです。ですから、海や水を大切にしなければ、近いうちにツケが回ってくるのです。今はギリギリのところまで来ていると感じます。

コスタリカに学ぶ

 コスタリカは、軍隊を持たない国として知られていますが、軍事費が不要な分を環境負荷のかからないものを作り、動物園や水族館も廃止し、最低限のペット以外は飼ってはならないなど制度も整えられています。ホテルの奥まったロビーでは、鳥が巣をつくり生活をし、ナマケモノや世界一美しい鳥と言われるケツァール、白いアルビノがいるサルの家族が民家の近くに棲んでいたりします。これは、森で暮らすよりも人の近くにいた方が安全だと判り、自然の方から人に近寄ってきているのです。人間が自然や生き物に対する接し方や気持ち、関係性が変わると新たなる共生関係が築けるということなのです。
 私達の行動や意識が変われば、このように地球の環境も変わってくるのではないかと感じます。今回、ここに集まった方々が情報を得て、それを発信し、少しずつでも行動につなげられたら、皆の意識が変わってくれるのではないかと思います。

まとめ

 撮影や取材で、世界の様々ないのちと真摯に向き合ってきた高砂さんは、そこで感じ見た光景を「水」を通して語って下さいました。環境先進国のコスタリカのお話は、我々に学ぶべき大きなものを示しているようにも思います。環境負荷の少ない暮らしは、国民の生活満足度にもつながると言われています。「健康で幸福にいきるためには、豊かな自然環境が必要」という視点に立ち、人間にとっての幸せが、地球にとっての幸せにつながるという考えは、高砂さんの理想とする暮らしと一致しているのではないかと感じました。
水を通して、地球のシステムを考え、今私達の置かれている生活を顧みると、すべき行動が見えてきます。この現状を知っている人から声をあげ、生活を変えていくことが必要だと教えてくださいました。スーパーで売られている刺身や肉についても、商品ではなく、いのちある生き物であり、そのいのちを感謝して頂く感覚も大切。不要なビニールや包装を断ったり、そうでない商品を購入したりすることも、地球システムを循環させるために必要な行動なのです。

楽しみなお知らせです。6月にナショナルグラフィック社から写真集「Planet of Water」を出版予定で、2019/6/4(火)~6/24(月)まで、ニコンプラザ新宿THE GALLERYで、写真展が開催されるそうです。是非とも、足をお運び下さい!

https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/201706/20190604.html

報告:山内 まゆ

高砂淳二氏著書

「Dear Earth」

「night rainbow ~祝福の虹」

「Light on Life」

「ASTRA」

「夜の虹の向こうへ」

「Children of the Rainbow」

「虹の星」

「free」

「BLUE」

「life」

「PENGUIN ISLAND」

「そら色の夢」

「南の夢の海へ」

「ハワイの50の宝物」

「クジラの見る夢 ~ジャックマイヨールとの海の日々~」など多数。

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