2021年3月9日に開催されたJCUEオンラインは、科学ジャーナリストで朝日学生新聞社編集委員の山本智之さんをお招きしました。山本さんは朝日新聞記者として約20年間、科学報道に携わり、宇宙開発、自然災害、医療の現場などで科学的見地から取材をされています。プライベートでもダイビングをする山本さんは、海の環境問題も熱心に取材されています。今回は、海の『温暖化』と『酸性化』のゆくえについてお話いただきました。

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目次

宮古島の八重干瀬でサンゴの白化を取材

2007年、大規模なサンゴの白化現象を石垣島で取材しました。白化したサンゴは白く美しく、死にゆく前のサンゴの最後の輝きのように見えました。2018年には、国立環境研究所と共同で宮古島の八重干瀬で調査を行いました。この調査は、空撮と潜水を組み合わせ、生きているサンゴがどのぐらいいるかを調べたものです。海底に占める生きたサンゴの割合は、10年前に比べ約7割減少というショッキングな結果が明らかになりました。高い水温に伴う白化現象でサンゴが大量死したのが主な原因です。気象庁のデータを見ると、白化が起こったときは、7月から8月にかけて30℃を超す水温が続いていました。
この調査により、サンゴ礁生態系が深刻な打撃を受けていることが裏付けられ、調査結果は朝日新聞に記事として掲載しました。

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世界レベルでサンゴの白化現象が頻発

サンゴには褐虫藻という微細藻類が共生し、光合成をしてサンゴに栄養を与えています。高水温などストレスが加わると、褐虫藻が大幅減ってしまい、サンゴの骨格が白く透けて見えるようになります。これが白化の仕組みで、長く続くとサンゴは栄養失調で死滅してしまいます。
気になるデータが科学誌の『サイエンス』に発表されています。サンゴが白化現象に見舞われる頻度が、1980年代初めまでは25~30年に1度だったのが、近年は6年に1回と頻発しています。白化の間隔が短くなるとサンゴが回復できずに減少の一途をたどることになります。

日本近海の海水温は、世界平均より上昇している

大気中の二酸化炭素などの温室効果ガスが増えると、熱が閉じ込められて気温や海水温が上昇します。世界の平均海面水温は100年あたり0.55℃のペースで上昇しています。見過ごせないのが、日本近海では、世界平均より倍のペースで海水温が上昇してるということです。過去100年、全海域平均で1.14℃も上昇しています。1.14℃は陸に住む私たちの感覚では、わずかな温度変化のように思われますが、海の生物たちにとっては大きな温度変化になります。
将来の海水温は、今後100年で最悪のケースでは3.58℃上昇すると推定されています。これまでの100年に比べ、今後は約3倍のスピードで海の温暖化が進行する可能性があります。

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『温暖化』の影響を強く受ける北の海

温暖化が進むと海の生き物に様々な変化が起こります。影響は南の海だけでなく北の海にも現れます。冷水を好むサケは日本近海の海水温が上昇すると、ベーリング海など北の海から日本近海へと南下できなくなる可能性があります。天然のコンブは温暖化が進めば幾つかの種類がなくなると予想されています。
一方で、増える魚もいます。サワラはこれまで日本海では少ししかとれませんでしたが、今はたくさん水揚げされています。京都府舞鶴では、1970年ごろには分布していなかった37種の南方系の魚が見られるようになったという研究データがあります。
相模湾・駿河湾海域では、相次いで越冬する死滅回遊魚が確認されています。過去20年間で23科59種の熱帯性魚類の越冬が確認されています。ダイバーとしてはきれいな珍しい魚の写真を撮れるのはうれしいですが、手放しでは喜べない状況です。

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海水の『酸性化』がもたらす変化

人類が排出する二酸化炭素の約23%を海が吸収しています。これまでは、海が二酸化炭素を吸収してくれて、温暖化にブレーキをかけてくれている、という面が強調されていました。ところが、二酸化炭素が海水に溶けると水素イオンが増え、海水のPHが低下し、海洋酸性化が起こります。海洋酸性化で問題なのは、貝類やウニ、サンゴなどが、炭酸カルシウムの殻や骨格を作りにくくなることです。海の生物への影響が懸念されています。ミジンウキマイマイは薄い殻が作れなくなり死んでしまい、それを餌にするクリオネも絶滅する可能性があると指摘されています。アワビやウニも酸性化が進むと悪影響を受けるとみられており、高級な寿司ネタは酸性化が進むと手に入りにくくなる心配があります。

『温暖化』と『酸性化』は同時に進行する

海の温暖化も酸性化ももう始まっています。大気中の二酸化炭素が増えると、大気だけでなく海水の温度も高くなります。二酸化炭素が海水に溶け込んで、海の酸性化も進みます。その進行を遅らせられるかどうかは、人類がどれだけ二酸化炭素の放出を減らせるかにかかっています。

式根島でpHが低下した海域を取材する山本さん。海底から二酸化炭素が噴出している場所では大型の海藻やサンゴが見当たらない。海洋酸性化が進行すると、ほかの海域でも同じような状況になることが懸念される

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私たちにできること

便利で豊かな生活を求め、私たち人類はひたすら産業を発展させてきました。二酸化炭素の排出が今のペースで続けば、温暖化や海の酸性化は確実に進みます。手遅れになる前に解決策を考え、実行しなければなりません。
個人のレベルでできることとして、節電など省エネが挙げられますが、効果が大きいのはエネルギー転換を国レベルで進めることです。各国の総発電量に占める再生エネルギーの比率で、トップのカナダは66%、ヨーロッパもおおむね高いレベルにあります。一方、日本やアメリカは低く、まだまだ頑張れる余地があります。
温暖化と酸性化の2つの問題解決には、二酸化炭素の排出削減が不可欠です。自分やその子孫は、将来もこれまでと同じように豊かな海の恵みを受けることができるのか。未来を決めるのは私たち自身です。

(本の紹介)

『温暖化で日本の海に何が起こるのか』
著者:山本智之 
出版:講談社ブルーバックス

今回、JCUEオンラインでお話いただいた内容をより詳しく、図版や写真を入れて紹介している山本さんの著書です。
第1章 「美ら海」からの警鐘
第2章 日本の近海で生じつつある「異変」
第3章 食卓から「四季」が消える
第4章 海洋生態系を脅かす「もう一つの難題」
第5章 どうなる? 未来のお寿司屋さん

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000344368

開催概要

JCUEオンラインセミナー  海の『温暖化』と『酸性化』のゆくえ
主催 NPO日本安全潜水教育協会

開催日時 
2021年 3月 9日(火)
19:30 セミナー開始 21:00 セミナー終了

参加資格
設定なし

参加費
JCUE会員・学生 無料  
会員以外の方 ¥1,000

参加方法
ZOOMを使ったオンラインセミナー

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