活躍のシーズンを終えたドライスーツが、そろそろウエットスーツにバトンタッチして休養に入る季節ですが、そんななか「ドライスーツのインナーを科学してみよう」という興味深いセミナーが開催されました。
【JCUEセミナーレポート】
2015年6月2日開催
「ドライスーツのインナーを知る 、あなたのインナーは本当に暖かいの?」
この記事はnoteでも読む事が出来ます、内容は同じ物となります。
ドライスーツは、中に着るインナーによって温かさもストレス度も大きく違ってきますが、皆さんはどこまでインナー選びに気を配っていますか? せっかく保温性の高いメーカー専用インナーを着ているのに、その下に吸水性抜群で御法度とされる綿肌着を着てはブルブルと震えながら潜るダイバーもよく見かけます。せっかくのドライスーツもインナー選びを油断しては台無し。今回は、ワールドダイブやモビーズの専用インナーにも採用される高性能合成繊維の生地メーカー3社の専門家をお招きして、どうすればより温かく潜れるか、それぞれのマテリアルの特長と仕組みをたっぷり解説いただきました。ご協力いただいたのは、シェルドライ用インナーに人気の「3M™シンサレート™高機能中綿」、透湿・防水・保温性に秀でた特長でネオプレーンドライのインナー生地に抜擢されている「POLARTEC」と「ZAMZA」の製造メーカー3社です。
まずは、ワールドダイブのシェルドライ用インナーにも採用される「3M™シンサレート™高機能中綿」を製造するスリーエム ジャパン株式会社の宇佐美 浩一さん。
「Thin But Warm Insulation=薄くても温かい」をコンセプトとした3M™シンサレート™(Thinsulate)は、理想的な断熱媒体である空気の層をたっぷりと作り、そこに身体から出る熱をいかに溜め込むかを追求した保温力が魅力です。髪の毛ほどの極細繊維といくつかの繊維を組み合わせ、それらを綿あめを作るようにグルグルと絡めあげることで空気の小部屋をたくさん作り、温まった空気の流動を最小限にとどめる仕組み。シンサレートは「空気を重ね着する」インナーというわけです。
(Cap.)3M社では「サーマルマネキン」を使って暖かさ=体感温度をヴィジュアル化して検査。一般的な衣類を着た右側は赤く映っていますが、これは服の外に熱が逃げている証。いっぽう3M™シンサレート™高機能中綿を着用した左側は、一面が温度の低いブルーに。これこそ3M™シンサレート™が熱の放出を防ぎ、服の内側に熱をためる=温かい証拠!
熱源はあくまでも体温なので、「3M™シンサレート™生地をなるべく肌に近づけて着ることがポイントです。羽毛ぶとんの下に毛布をかけるより、羽毛ぶとんの上に毛布をかける方がぐっと温かく眠れますよね。3M™シンサレート™も羽毛ぶとんと同じで、レイヤー(重ね着)のにいちばん肌近くに着てこそ、その優れた保温力を実感できます」と着用時の大事なポイントも教えていただきました。
続いて、ネオプレーンドライ用のインナーに採用される2社。まずはアウトドアのプロフェッショナルやミリタリーからも絶大な支持を得ているフリースのエキスパート、「POLARTEC」を製造するエスシーティージャパンの藤田学さんです。
POLARTECはモビーズの専用インナーにも採用される高機能フリースです。1981年、パタゴニアから世界初のフリースとしてセンセーショナルなデビューを果たした「ポーラーフリース」。生地を起毛し、いかに長い毛足(ロフト)をキープして切り揃え、多くのエアポケットを作るか……毛足が短すぎると虎刈りになり、最適なロフトで保温力を最大限に発揮するこだわりこそ、POLARTECが誇るフリースの特長です。また、「汗をかいてそのまんま、が一番NGです。そのため、いかに汗をかかせないようにするか、通気性を重視した素材にもなっています」と藤田さん。生地見本もいくつか拝見できたのですが、表と裏の二重構造になった生地裏側(肌面)に水を垂らすと、あっという間にシミが薄く小さくなっていきます(下写真左)。そして生地表側(表面)へめくるとシミがみるみる広がっていき(下写真右)、それはほんの数秒の出来事! 素早く汗を吸い上げて、外へと拡散蒸発させる様子に「これぞポーラーマジック!」と会場のあちこちで驚きの声が上がっていました。
(Cap.)ドライインナーに使用されている「Power Stretch」。汗をかいても素早く水分を吸い取ってはたちまち外に拡散する吸水性、通気性は目を見張るほど! 肌をドライに保ち温かく軽い上に、4方向に伸縮するストレッチ性も兼ね備え、表は丈夫なナイロン製で耐摩耗性も考慮したハイスペックマテリアルです
快適なウィンターダイブには、汗をかいたりうっかり水没したときの不快感や寒さをどう防ぐかも鍵を握りますが、「やはり『肌に触れる面がサラサラ!』がいちばんの理想なので、冬こそ専用インナーの下に、肌面をドライに保てるアンダーウェアを着るのもオススメです。最近はウールやメッシュのPP(ポリプロピレン)肌着をアンダーに着るのがアウトドアの流行で、これらを一番下に着るとつねに肌がサラサラに保てます!」と藤田さん。ダイビング業界でも、インナーのレイヤリングを再考してみると面白いかもしれません。
最後は、ワールドダイブのインナーに採用される透湿防水素材「ZAMZA」を製造する蝶理株式会社の篠尾俊寛さん。
もともとゴルフ向けに、冬でもより温かく、よりよいスウィングをしてもらえるウエアを、と14年前に開発された「ZAMZA」。表は防水&撥水性や耐水性、保温性に優れながら、裏地は高い透湿防水性で、水は通さず湿気(水蒸気)のみを通す特殊構造で作られています。
ZAMZAの透湿防水膜は、水に触れると膜が膨張しますが、汗を水蒸気へと変化させ、衣服の外へ放出してくれるので、汗をかいても快適で温かいまま。どんな動きにもストレスなく追従する高密度ニットのしなやかさとストレッチ性もうれしい魅力で、その実力ぶりからゴルフやランニング、レインウエアなどとしても幅広く活用されています。
「ZAMZAは水蒸気のみを外に逃がすので、アンダー1枚目にPP(ポリプロピレン)を用いた合繊肌着で汗を吸水拡散させて、2枚目に例えばPOLARTECさんのフリースなど通気性&保温性の高い素材で水分を水蒸気化。そして3枚目に透湿防水性のあるZAMZAを使用した専用インナーを着るのが僕のオススメです。保温性はもちろんですが、運動量の多いスポーツでもいかに快適に体を動かせるか、それによって趣味の質を向上させることがZAMZAの目指すところです!」と笑顔で締めくくりました。
3名のエキスパートによる講演後はパネルディスカッション(質疑応答)が行われ、そこでは会場にいらしていたワールドダイブの高橋信弘さんへの質問もいくつか。中でも「ZAMZA」を採用した理由について尋ねられると、「ZAMZAは透湿防水のメリットはもちろんですが、水圧にも耐えうる生地で着用しやすく、高い防風性もあるためドライスーツを脱いでインナーだけ過ごすにも温かいなど、ドライ着用時と脱いだ時の両方を考慮して作られています。加えて表面の撥水性も非常に高いため、ドライスーツ内に水が入ってしまってもインナーの表面が弾いてくれます。水気はインナー表面を水玉となって流れるだけなので、内側が濡れることなく肌は乾いたままでいられるんです」と高橋さん。
また、今回のセミナーでインナーのアンダーウエアへの注目も高まったことから、綿は汗などの水分を吸収して保とうとするので避けるべきなのはもちろん、UNIQLOのヒートテックやmizunoのブレスサーモなどの着用感、Weezleなど、ディスカッションも話題が尽きないほど盛り上がりました。
いかに水気を肌に触れさせず、効果的なレイヤリングを考えて組みわせるかで、真冬のダイビングも快適さや温かさがぐっと変わるんですね。たかがインナー、されどインナー……いろいろなレイアリングも試してみるべく、来季のウィンターシーズンが今から待ち遠しくてたまらなくなったセミナーでした。
※各製品については下記もご参照ください。
3M™シンサレート™高機能中綿
http://solutions.3m.com/wps/portal/3M/ja_JP/Thinsulate_Insulation/Homepage/
POLARTEC/POWER STRETCH
http://www.challenge-21c.co.jp/polartec/powerstretch.html
ワールドダイブ/ドライスーツインナー製品(ZAMZA採用製品もこちらをご覧ください)
http://www.worlddive.co.jp/product/data/15cata_sup_DRYSUITSINNER.pdf