日本は海に囲まれた島国であるからこそ、今まで知り得ない魅力的なダイビングポイントが多数存在します。そんな日本の海の魅力や面白さを、写真家の中村卓哉さんの素敵な写真と共に語って頂きました。

目次

1.鹿児島県・薩摩硫黄島

小笠原南の硫黄島と異なり、鹿児島県の竹島・黒島・硫黄島からなる三島村です。ここは、日本のジオパークになっており、鬼界カルデラジオパークと言うところです。喜界カルデラとは、およそ7300年前に海底火山が大噴火して、南九州の縄文の文明と人が消し去られたという大噴火が起こった場所です。そこのカルデラの跡地になります。外輪山に当たる部分が硫黄島になります。この海を一緒に潜っているのは、8000本を超えるダイブ本数の大部分を新しい海への挑戦に注いできた、ポイント開拓のエキスパートSUNS DIVEの木村尚之さんです。

カルデラダイブといいまして、50メートルくらいの切り立った柱状節理の断崖絶壁の中で根待ちをするのですが、カルデラのくぼ地になっているのでダイナミックな景観が広がっています。そんな場所で、目の前をクロマグロの群れを通過するのを見たり、鬼界カルデラの外輪山で海面から突き出ている「湯瀬(ゆぜ)」という海外のような景色の広がる場所で、黒潮がバンバンと当たる場所を潜ったりするのです。なかなか行きづらい、国内の秘境です。

薩摩硫黄島の周りには、沈船ポイントもあります。「籠(こもり)」とうポイントですが、水深40メートルに沈没船があります。周りは白い砂地で、40メートルあるのですが明るくきれいです。ヨスジフエダイやキンメモドキが群れており、国内でこのような沈船ポイントはないと思います。

昭和に噴火した海底火山で出来た新硫黄島というポイントでは、海底から温泉の泡が噴出し、温泉の鉄分の影響で海底の砂が茶色く色づいているのです。ウミガメの遭遇率が高いのですが、気持ち良さそうにカメが寝ていたりするので、私はカメの湯磁場と言っています。

これは、ガイドの木村さんが海中オーロラと名付けている幻想的な景色が広がっているポイントです。
ここは、東温泉と言う海岸沿いにある天然の温泉でそこの沖合に当たるところで、先ほどは茶褐色の海の色でしたが、こちらは、アルミニュウム、乳白色の成分がちょっと多め、この緑色、上の方にちょっと蛍光色に見えるところは、茶褐色の水とアルミニュウムの水がまじり合って出来たグラデーションなのです。とてもきれいなのです。

2.鹿児島県・トカラ列島

トカラは面白い島なのですが、十島村と言ってトカラ列島は10個の島から成り立っており、コロナの影響で観光客の入島が禁止になっております。ですから、枕崎からその日の海況によっていけるか行けないか、また条件によっても左右されてしまいます。

ここの海は、黒潮の奔流が当たる場所で流れも速いのですが、カラフルなイソバナが咲き誇っていたり、キンギョハナダイにハードコーラルの群生が広がっていたりとトカラまで南下すると海の様子は、熱帯の海に変化していきます。口之島周辺にはマンタがプランクトンを捕食する場所があるのです。運が良ければマンタが回遊しているようなシーンを目にすることが出来ると思います。
4日間くらいのクルーズの最終日、安全停止中の最後の5分でタイガーシャークが現れたのです。ゲストのお一人は、ポートにカバーをつけていて、もう上がるのだろうと思っていました。自分とむらいさちさんは、タイガーシャークのために準備をしていましたが、まさか現れるとは思っていなかったので…これがガイドの真骨頂、最後の最後に当てる!本当に凄いですよね。

3.鳥取県・田後

きれいなリアス式海岸の岩美町の海は、地質学的にも地層や岩石の宝庫なのです。
2014年9月にユネスコに山陰海岸ジオパークに認定された場所で、ユネスコから視察の方が来た時に海を紹介したのがブルーライン田後の山崎英治さんです。カメラが得意で、ダイビングショップですが、カメラ器材の量がすごいのです。忘れ物をしても、ここであればストロボでもライトでもポートでも、何でもそろうというほどカメラに精通したガイドさんです。
ショップの名前を初めて聞いたのが、NHKのダーウィンが来たという番組で、ヒメタツの生態シーンを山崎さんが撮影したという情報を聞き、初めて知りました。自分が、ヒメタツの卵を受け渡すハートマークと言われているシーンを初めて撮影したのがこの海なのです。毎年、毎年、寝る間を惜しんで撮影し、生態のデータをとり、ガイドをしている山崎さんは、連日連夜データを分析し、撮影日に当てていくという努力をして下さっているからこそ、自分たちは撮影できるのです。

田後のゴイシワラというポイントでは、ダンゴウオのハッチアウトのシーンを撮影しました。1センチくらいの小さな穴に親が棲んでおり、その穴から赤ちゃんが飛び出した瞬間を捉えたのですが、ファインダーから目を離すことが出来ずに苦労をしました。

田後の海は、マクロだけではなくワイドも面白いのです。菜種島と言う景勝地に洞窟があるのですが、入り口が青く見える沖側と、緑色に見える岸側をワイドで撮影すると2色同時に撮影ができるのです。まさにジオパークの絶景ポイントです。

また、山崎さんは開拓精神も素晴らしく、「イトグリ」という-33mがトップでその周りは-50mというポイントも潜るのです。ここでは、サクラダイの群れている場所があるのです。日本海では珍しい光景です。この夏にいよいよオープンする「鳥取砂丘沖」と言うポイントは、2019年の夏頃から一緒に潜っています。砂丘の沖ってどうなっているのでしょうか?海の中から覗いてみましたが、そのまま砂紋が続く砂丘の馬の背のような起伏が海の中にもあるらしいのです。そのようなものがあれば、凄く画になると思っており、素潜り漁師さんしか潜っていないので、今後、見つかるといいなと思っています。
潜るといきなりハマチの群が横切っていったり、アオリイカが赤いヤギに産卵していたり、ネコザメは結構な確率で遭遇します。

4.福岡県・糸島

糸島は、SUNS DIVEの木村さんが経営されている「糸島ベース」を基地にして、60キロほど離れた沖ノ島とか西海・五島方面へ行っています。
福岡市から、わずか20キロほどの場所で、こんなに素晴らしい海があるのかと驚きました。
木村さん曰く、海の遊歩道といわれている「蛭子崎」というポイントでは、主にバディ潜水などで潜るのが主流です。ここは、ウミシダがものすごく生息しており岩を覆い隠すくらいなのです。このポイントは、付着生物であるカイメン、ホヤ、海草などが多く、どこをどう見せたいかで、アングルや構図、ライティングを変えて撮影をすると非常に面白いのです。

次は、「糸島港内」のポイントです。この写真は、先月撮って来たのですがアマモの群生。港からすぐの浅場に、アマモが群生していました。アマモは、どこを撮ったらいいのか?と悩ましいのですが、自分は周りに砂地があって、ポツンとアマモがたたずんでいるそんな様子をモノクロで雰囲気を出すように撮っても良いのではないかと思いました。

アマモの緑が美しかったら、緑色が映えるように色の設定とかこだわって撮るのもよし、あとは形に惹かれたら、太陽とアマモのシルエットでちょっと引いて撮るのもよし。色々な撮り方があると思います。
糸島の海、沖ノ島へ行く途中のベースとは思わずに、海の遊歩道、ここだけでも楽しめる海なので是非、ワイドもマクロも充実した海なので是非とも行ってみて下さい。

5.福岡県・沖ノ島

世界遺産の沖ノ島、初めて訪れたのが2019年です。NHKのワイルドライフという番組の撮影を沖ノ島だけで年間64本撮影しました。この海は、回遊魚も豊富で、常に魚影の濃い海でまさしく神の島その名の通り、スケールの大きな海です。
今、沖ノ島では一般人の上陸は禁止されていますが、ダイビングだからこそ楽しめる世界遺産の海です。普通に観光では行けず、サンズの木村さんしかこの海を紹介しているショップはないのですが、年間を通してこの海を潜っています。

「インペリアル」というポイントでは、イサキの群れがイワシの如く高密度で固まった魚影がみられます。夏場は、どこまでもイサキで覆いつくされるのです。どこまでも、続くイサキの群れでロストするくらい凄い群が続きます。その他、他ではなかなか見たことがないシイラリバーなどの回遊魚が豊富なのです。小呂島周辺では、クロマグロの群れと出逢いました。自分が初めてロマグロを観たのも、この玄界灘です。

「祇園」と言うポイントでは、キンギョハナダイの群れが紅海より凄いのではないかと思うくらい群れており、しかもハナダイが大きく密度もすごいのです。根にはソフトコーラルが色鮮やかについており、写真映えするポイントです。

「屏風」という60mの一枚岩の深い所にシキシマハナダイが群れているのですが、4月くらいになると、水深が上がり20~25mのところへ求愛行動で婚姻色になっているオスの姿もチラホラと見受けられます。目の所に紫色のアイシャドウが入っており、胸ビレと腹ビレが白くなり、ヒレを開くととても美しいのです。

沖ノ島は、実は島の周りにイルカが居ついています。2020年は3頭のイルカがおり、子供が生まれました。木村さんは、この子供を『サン』と名付けました。秋口にイルカが居なくなってしまい、どこへ行ってしまったのか?子育てで島の周りにきただけなのか?と思っていたら、2021年4月に4頭のイルカが帰ってきていました。

6.長崎県・西海

上五島の西海は、木村さんが2020年から開拓している海です。糸島からおよそ100キロ離れた場所に、上五島町の高麗曽根があります。大きさが渋谷区くらいで、結構大きな沈み瀬があり、釣り人の憧れの聖地のような場所で、なかなか行くことが出来ない場所です。
2020年に初めて連れて行ってもらいましたが、柱状節理があり海中遺跡のような景観が広がっています。

昔、島にいたお坊さんを怒らすと島が沈んでしまうという高麗島伝説があります。そこにいたずら小僧がお坊さんの顔に赤いペンキを塗ったそうです、そこでお坊さんが怒り、逆鱗に触れ島が沈んでしまった…そんな伝説がある場所です。

今ここは磯焼けで、その場所に小さなミドリイシ、ハードコーラルが出てきています。昔は海藻が生い茂っていた場所で、釣りのメッカであり、漁業が盛んにおこなわれた好漁場でした。最近は海藻の姿がなくなり、海が南国の様子に変化してきている。岩には、昔は海藻が生い茂っていたものが、今では大きなテーブルサンゴが群生しています。

五島はスルメイカ漁が盛んですが、水温が下がらずに漁獲高が下がっているそうです。ここ数年でガラッと景観が変わってきています。海中は、沖縄の県魚であるタカサゴ(グルクン)が群れています。温帯と亜熱帯の交差点といいますか、対馬海流と日本海が当たる場所、両方がミックスしているが温暖化により段々と熱帯の海、魚種が増えています。あと10年くらいたったらどうなるのでしょうか?沖縄のような海になっているかもしれません。

7.沖縄県・辺野古

ここは、自分のライフワークといいますか、もう21年になりますね。自分が初めての写真展や写真集を発表した特別な海です。
JCUEでは、2018年4月に辺野古を題材とした講演をしました。その後、ニコンの写真展に向けて、5月にはサンゴの産卵の撮影に成功しています。今も通い続けていますが、辺野古、名護の北の方はヤンバルの森が広がっています。今、この森が世界自然遺産に登録されるのではないかと期待されています。自分はヤンバルと言うと、川の水に豊富な栄養が注ぎ込まれていて、そこから川を通じて豊富な栄養が大浦湾、辺野古のサンゴを育み、見事な群生が見られるのです。ですから、森だけではなく海の中も一緒に自然遺産に含まれて欲しいと切に願っています。(※2021年7月26日に、世界自然遺産として登録決定されました。)

これは、フカハネハマサンゴと言って、直径4mくらいあるサンゴです。ダイバーと比べても、とても大きなサンゴだと分かると思います。サンゴの1つ1つの規模が大きいのです。
これは大浦湾の中ノ瀬というところに、パラオハマサンゴの群生があります。ここは、3年前くらいに始めて潜りました。最初は手探りで山だてして潜ったり、泳いだり、広大なサンゴ根なので、ポイントを見つけるのが大変だったのですが、最近は、GPSを打ったりしポイントが絞られてきまして、辺野古へ行くと毎回、訪れています。
パラオハマサンゴは、死んだサンゴの上に生きたサンゴが積み重なって成長していきます。
実は、2017年夏に海水温が上昇し、辺野古一帯の大浦湾の浅場のサンゴが白化したのです。結構、大規模に白化したので心配でしたが、イソギンチャクも白くなり、見た目はキレイではあるのですが、海水温が上昇するとサンゴは褐虫藻を吐き出してしまうのです。それで、骨格の色がむき出しになり、白化現象が起こります。ただ、水温が戻ってくるとまたもとに戻ります。

この写真が、去年2020年のアオサンゴの群落でスケールが本当の大きく、一つの根の高さが12m、大きさが30~50mあるのです。根のトップは色々な種類のサンゴが群生しています。1種類だけではなく、この一つのエリアにたくさんのサンゴが密集しているのが大浦湾のサンゴの凄さです。

最初に大浦湾へ潜った2001年からずっと通っていますが、ハマクマノミが50匹以上、棲息している「クマノミ城」と言われている場所です。キャンプシュワブという基地が目の前何ですが、イソギンチャクが密集していました。

これは、2013年に撮影したクマノミ城ですが水がよどんでおり、雨が降ると赤土の水がこの上を通るようになりました。2012年3月26日に開通した二見バイパスの工事の影響や基地の埋め立てが始まり心配をしておりました。

この写真は2020年11月に撮影したクマノミ城の写真です。またイソギンチャクが戻ってきつつあるのです。しかも、この上に丸いミドリイシがポツンと新しく生息しており、復活しつつある。よく「大浦湾、辺野古の埋め立てが始まったのでしょ?あそこは、死の海になってしまったのでしょ?」とか質問を受けますが、今埋め立てられてしまった場所は、面積からすると1/4、深い所がほとんど残されているのです。まだ地盤が固い所だけしか埋め立てられていない、大浦湾側はまだ手が付けられていないのです。まだまだ後戻りが出来る、そんな状態なのです。

8.まとめ

 コロナ禍の2021年5月19日に開催された中村卓哉さんのセミナーでは、「日本には海外にも引けを取らないダイナミックで美しい魅惑のスポットが無数にある!」そんな日本の海の魅力を伝えて頂きました。新しい切り口で開拓するバイタリティーあふれるガイドの方々の調査や生態観察を重ね、ここぞという時期に案内できる努力には敬服するばかり。

そんな素敵なガイドの方々と二人三脚で、日本各地を飛び回り撮影された卓哉さんの写真からは、ダイバーの心を揺さぶるストーリーを感じることが出来ました。
海外に行けなくても、まだ知らない日本の海のポテンシャルの高さや、これから更に開拓されていく新たなポイントにワクワクが止まらない時間となりました。
今回、ご紹介して下さったガイドの木村さんと山崎さんの海へ出かけたくなった方も多いのではないでしょうか?是非とも予約して、五感で海を味わいに行きましょう!

SUNS DIVE

https://suns-dive.jp/
木村 尚之さん

Blue Line 田後

http://blueline.lolipop.jp/
 山崎 英治 さん

報告:山内まゆ

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